Starry Sky

ゲイによるノンケ向けのゲイ恋愛小説です。性的表現は控えめですがなきにしもあらずなので苦手な方はご遠慮ください。

小説

035. 新しい場所で

泰三さんは抱きしめた腕を緩めてオレを見つめた。
初めての夜に見せた寂しそうな笑顔だった。
おまけに涙でグショグショになっている。

「……泰三さん、本当にゴメンね」
「もう、ええよ…約束して、くれたんやから」
「うん、ずっと一緒に居ようね」
「オウ。よし、もう泣くのやめにしよ」

泰三さんは頭に巻いていた手拭いをほどいてオレの顔を拭ってくれた。
そしてそのあと自分の顔も拭った。

「そういえば蜜子さんから聞いたけど…黒澤が逃げたって…」
「ああ…それやったら、大丈夫や…」
「どういう事?」
「ここでお前を待ってる時に警察から連絡があってな…
……あいつ、自殺したらしい」
「え……?」
「病院の屋上から飛び降りたんやて…」
「そう……」

なんか複雑な気持ちだった。
確かに俺達の命を狙っていた男だったが
そいつの死を望んでいたわけじゃない。

「まあ…人の死を喜ぶのは不謹慎やけど
安心くらいはしてもええんちゃうかな」

オレの気持ちを読んだかのように、泰三さんが呟いた。

「そう…だよね」

泰三さんはニコッと笑って頷いてくれた。

「そうだ…蜜子さんに報告しに行かなきゃ。
ファミレスで待ってるって言ってた」
「ああそうやな、あの人にはホンマに世話になったし、お礼も言わんと」

俺達は来た道を引き返してファミレスに入った。
蜜子さんは窓際の4人掛けのテーブルでコーヒーを飲んでいた。
目が合うとニヤッと笑って手招きした。

「だから言ったでしょ」
「え…?」
「報告聞くまでもないよ。目が全然違うw」
「さすがですね…」
「ホントにもう…名取君たら人騒がせなんだから」
「ホンマやで」
「……ごめんなさい」
「まあ、いいわ。こうしてちゃんとヨリが戻ったんだし。
で、ここからが本題なんだけど」

といいながら蜜子さんはカバンから封筒を取り出した。
そこからA4サイズの紙を取り出して俺達の前に一枚ずつ差し出した。

「え……?なんすかこれ」
「日本語読めないの?書いてあるでしょ。『雇用契約書』って」
「イヤ、それは分かるんですけどどういう事ですか?」
「うちのショップの隣、テナント募集してるじゃない?
あそこ借りてカフェやろうと思って」
「は、はあ……」
「名取君お菓子作り好きだって言ってたじゃない?
前からカフェをやりたくてさ、ちょうど隣が空いたから二人にどうかと思って。
おいしいケーキが売りのカフェですみたいな」
「でも…オレみたいな悪人面が居ったら客来んのとちゃいます?」
「アラ、あたしからしたら超イケメンだと思うけど。名取君には勿体無いくらいの」
「ちょっとーなんすかそれー」
「冗談よw まあ外見は大丈夫よ。安心して」
「でも…そのアイデアは悪くないかも。
泰三さん、大阪に居た頃にフレンチレストランで働いてて
料理もすごく上手だから、ケーキ以外のメニューも売りに出来ますし」
「えー、フレンチレストランで働いてたの?見えない!」
「……どうせ肉体労働者ヅラですよ」
「イヤイヤでもいいわそれ!おしゃれな料理とか出来ちゃう系?」
「まあ…少しなら」
「謙遜しちゃって。泰三さんの料理、マジ旨いんで」
「イヤ、それを言うならユキヒロのお菓子も旨いで。
そこらのケーキ屋になんか負けへんわ」
「じゃあ、決まりね。ここにサインして」
「でも、オレら二人厨房で、他のスタッフはどうするんですか?
お店の規模にもよりますけど厨房も二人で回りますかね?」
「大丈夫。小さなお店だからそんなにキャパはないから厨房は二人で十分よ。
ホールの方はアルバイトで十分まかなえるし」
「がんばって…みる?」
「……そうやな。イヤしかし…ホンマになんてお礼言ったらええか…
オレらの仲を取り持ってくれた上に仕事まで……」
「いいっていいって!あたしも世話好きだからさw
それにお店の事はあたしの希望にちょうど二人がピッタリだったんだし
別に恩を売るつもりで雇おうとは思ってないからね。
しっかり働いてもらいますからw」
「任しといてください!」
「オレもがんばります!」
「ウンウン、二人とも頼もしいねえ♪期待してるからね」

俺達は雇用契約書にサインした。
あんだけ苦労して全く見つからなかった仕事が
あっという間に決まってしまった。
しかも泰三さんと同じ職場。夢みたいだった。

そのあと蜜子さんにお礼を言って別れ
泰三さんの家に泊めてもらうことにした。

「なあ…今どこに住んでるん?」
「浅草の…オンボロアパートw」
「……あのな、オレ仕事クビになったやろ?
でも理由がゲイやからって、完全に不当解雇やんか。
ごねて復職してもよかったんやけど、どうせ針のムシロやから
工場長に掛け合って契約期間満了の3月末分までの給料を
退職金扱いで支給してもらったんよ」
「そうなんだ、新しい仕事も決まったし、結果オーライだね」
「ああ。それで結構額もあるし……
良かったら、二人で新しい部屋借りて、住まへんか?」
「え…?」
「お前と、ずっと一緒に居りたい」
「……ホントに?」
「ああ、ホンマや」
「夢じゃないよね!?」
「夢ちゃうってw ホラ」

そういうとほっぺにキスしてくれた。
一瞬の事だったけど、頬に残る温もりが夢じゃないと教えてくれた。
嬉しくて涙が溢れ出した。

「…泰三さぁん……」
「アホ、泣くやつがあるか」
「だって嬉しいんだもん」

泰三さんが大きな手で涙を拭ってくれた。

「新しい部屋、どんなんがええかな」
「おしゃれな部屋がいいねえ」
「それはユキヒロが散らかすからムリやなw
なんせあの龍次さんの甥っ子やからなあw」
「が…がんばるもん!」
「ホンマかあ?w とりあえず明日から不動産屋巡りやな」
「そうだね」
「楽しみやな」
「…オレ、泰三さんに出会えて本当に良かったよ」
「オレもやで。もう、お前が居らんとダメやわ」
「ゴメンね、勝手に居なくなって」
「ええよ、もう。約束してくれたんやし」
「うん。泰三さん、愛してるよ」
「オレも大好きやで。ユキヒロ」

そういうとオレの手を握ってきた。オレもそのごつい手を握り返した。
温かい。手を繋いでるだけで幸せな気持ちになれる。
きっと泰三さんもそうだろう…。
この先何年一緒に居れるか分からないけど
オレは最後まで泰三さんを愛し続けよう。
このぬくもりを、絶対に離さないように…。
星空の下でオレは心に誓った。

 おわり

034. 大キライって言わないで

「ゴメンね、うちで今雇ってる人だけでいっぱいなのよ」
「そうですか…」

これで5件目だ。
泰三さんがオレのせいで工場をクビになってから
オレはすぐに荷物をまとめ、浅草のボロアパートに引っ越した。
泰三さんと付き合ってオレはいろんな幸せを味わったけど
逆に泰三さんは狙われずに済んだ命を狙われ、
挙句の果てにはゲイだからという理由で職まで失った。
思えば最初の出会いもオレの不注意だった。
オレがしっかりしてれば泰三さんに迷惑を掛けなくて済んだのに…。
そう思ったら泰三さんにこれ以上関わってはいけない気がした。
お店もばれてるから会いに来られたらいけないと思い、
職場に電話してその日のうちにやめたいと伝えた。
蜜子さんは引き止めてくれたけど、
とりあえず有給消化で月末の退職という事で話をつけた。
あとは新しい職場を探すだけだったが…
なかなか思うように見つからなかった。

あれから2週間が過ぎた。9月に入ってオレは晴れて無職になった。
泰三さんは今頃何をしてるだろう…
メールも電話も、いまだに1日何十件も着信がある。
留守電も何度も吹き込んでくれていた。
でもオレはメールも、留守電も、内容を確認しないまま消去していった。
見てしまうと会いたくなると思った。

(ごめんなさい…)

心の中で呟いて、また消去ボタンを押した。
泰三さん…元気にしてるんだろうか。

今日も仕事にありつけなかった。
食費を抑えるためにスーパーでもやしを二袋買ってきた。
お皿に盛り付けてマーガリンを載せてレンジで加熱する。
塩胡椒して掻き混ぜる。

「……」

おなかが減っているのに食べたいという気持ちにならない。
もやしを箸でこねくり回しているうちにどんどん水分が出て来て、
皿の中ではしおれたもやしが濁った水に浸っていった。
ぬるくなったもやしを口に運ぶ。

「…不味い……」

その時、ケータイが震えた。
サブディスプレイには『泰三さん』の文字。
泰三さんの料理…美味かったな。

「こんな時に…電話なんかかけてこないでよ…」

涙が一筋、頬を伝った。
オレは泣きながらもやしを食べた。

その夜、10時過ぎにケータイが鳴った。
サブディスプレイには見たことのない番号。
ワン切りかと思って放っておいたが、
電話は震え続けた。

(誰だろう…)

いぶかしみながらも電話に出てみることにした。

「もしもし…?」
「名取君!?あなた今どこにいるのよ!」
「え?えーと…あ、なんで?」

電話の主は蜜子さんだった。
ケータイの番号は教えてなかったのに?

「彼氏が店に来たのよ、名取君の事探して!何やってんの!?」
「…オレは、泰三さんと一緒に居ちゃいけないんです…」
「は?」
「オレが泰三さんを不幸にしたんです…だから…」
「はぁ!?バカじゃないの!?
名取君が居なくなってからの彼のほうがよっぽど不幸に見えたわよ!」
「……そんな…」
「いくら電話しても出ないし、メールも返事がないって!
ひょっとしたら事故に巻込まれたんじゃないかって心配してたのよ!
なんでそんなバカな事を!とりあえず出て来なさい。
まだ彼に会いたくないなら、せめてあたしにだけ元気な姿見せてよ…」

結局蜜子さんの強引な説得に負け、オレは待ち合わせに応じた。

「浅草ねえ…まだ東京に居たとは思わなかったわ」
「ハイ……」
「やつれたわね」
「そうですか…?」
「目が死んでる」
「……」
「そんな好きなのになんで離れるの」
「だからそれは…」
「勝手な思い込みと勘違いでしょ」
「そんな…」
「あなたたち二人とも離れてから不幸になったようにしか見えないわよ」
「……でも…」
「一緒に服買いに来た時の顔とは別人ね…。
とにかくあたしに言わせれば、名取君の選択は大いに間違ってる」
「………………」
「ところで、彼が『黒澤が逃げた』って言ってたけど
何のことか分かる?」
「え……?」
「取り乱してつい口を滑らしたみたいで、すぐに誤魔化してたけど…
ちょっと気になったから」
「イヤ……知らない、です」

背筋にじっとりと汗が滲むのを感じた。
黒澤が逃げた…?
そんな…!

「とにかく彼とヨリを戻しなさい」
「え…えーと…考えときます…」
「そこは『ハイ』でしょ!やつれるほど好きなくせにバカじゃないの?」
「……ハイ」
「じゃあ決まり。行くよ」

蜜子さんはオレの腕を引っ張りぐんぐん歩き出した。

「ちょ、行くってどこへ?」
「いいから」

そういって客待ちをしているタクシーに詰め込まれた。
蜜子さんは行き先を告げるとなにやらケータイをいじり始めた。
車は中野区の方へと走っていく。やっぱり会わせる気か…。
どんな顔をして会えばいいんだ…。何を話せば…?
そんな事を考えているうちにあっという間に目的地に着いてしまった。
そこは広い公園だった。

「ハイここから先は名取君一人でね」
「え、蜜子さんは…?」
「これ以上名取君の尻拭いは出来ません。
そこのファミレスに居るから終わったら報告しに来るのよ。
名取君にはその義務があるんだから。
それにあたしからも話があるし」
「うぐ…ハ、ハイ…」

9月に入ったばかりの公園はまだ蒸し暑い。
広い公園なのに人は居らず、不気味なくらい静まり返っていた。
泰三さん…どこに居るんだろ…。
そう思いながら道なりに歩いていると、歩道の先に東屋があった。
そこのベンチに…泰三さんが居た。
泰三さんはオレの姿に気付くと無言でこっちに歩いてきた。
約半月ぶりに会った泰三さんは少しやつれて、すごく怖い目をしていた。
こんな目で見られた事なんかなかった。

「……キライになった…?オレの事…」
「…アホ!」

バシッ!!

頬っぺたを思い切りひっぱたかれた。
次の瞬間懐かしい温かさに包まれた。

「泰三さん…」
「お前まで…オレを置いて行ったと思ったやないか!
この…ドアホ!!」
「ごめんなさい…ごめんなさい……」

泰三さんの声は涙で震えていた。
肋骨が軋む位強く抱きしめられた。

「もう…どこにも行かんといてくれ…
ずっと一緒に居ってくれ…」
「……うん……」
「約束、したからな…あ、う…うぅ…ううぅ…」

泰三さんの口から嗚咽が漏れる。
オレも今まで堪えていた気持ちが堰を切ったように流れ出した。
蜜子さんが言った通りだった。
泰三さんと離れる事が泰三さんにとって幸せだなんて大間違いだった。
もう、絶対に離れない、オレは心に誓った。

033. 時計の針は進む

取調べは遅々として進まないのに、時計の針はどんどん進んでいく。

「…ちょっと連れに電話したいんですけど、いいですか」
「スイマセンね、一応事情聴取中はご遠慮願えますか」
「浪速警察署への照会はまだ終わらないんでしょうか…
心配させてるんで、少しだけでも連絡してやりたいんですが…」
「なんせ12年前の事件ですんでねえ、
データベースにない可能性もありますので」
「昨日スタンガンの件で電話があった時にも
12年前の事件の犯人があやしいって言って
浪速警察署の事も言っておいたと思いますけど…」
「そうだったんですか…部署が違うのでなんとも…」

だんだんイライラしてきた。
国家権力かなんか知らないけど本気で捜査する気があるのか?
だが今は待つしか出来ない。
時間はもう3時半を回っていた。

(ユキヒロ…心配してるやろな……
明日仕事やって言ってたし、寝ててくれたら良いけど…)

その時部屋のドアが開き、別の警官が入ってきた。
なにやら印刷された紙を数枚持っている。
担当の警官にそれを渡すと軽く会釈して部屋を出て行った。

「なるほど…確かに今日の男が黒澤で間違いないでしょうね。
川口巡査殺害の動機もあなたが言って下さった通りですね…」
「だから言ったやないですか」
「申し訳ありませんね…一応これも決まりですんで」
「……」

顔も掌も痛むし、ユキヒロの事が気がかりで
なかなか進まない事情聴取にうんざりしてきた。
本当なら誰にも見せたくなかった「あの写真」を出すことにした。
オレは龍次さんから貰った財布を取り出し、
カード入れの奥に作ったポケットに忍ばせておいた写真を出した。

「恥ずかしいんであまり人に見せたくなかったんですが…
12年前に川口巡査と撮った写真です」

その写真には高校時代のオレと龍次さんが写っていた。

「これはまた…随分とそっくりですね…
黒澤が狙うのも分かるような気がします」
「黒澤が言うには、オレがあいつと付き合っていたせいらしいですけど…。
オレのせいで12年前川口巡査を殺害して
満足していたはずの憎しみがまた蘇ったと…」
「なるほど…参考になります。この写真は…お預かりしても…?」
「大切な写真なので必ず返してもらえるのであれば…」
「お約束します」
「あの…何度もすいませんが…まだ帰れないんでしょうか」
「ええ…ようやく調書も届いた事ですし、
今日のところはお引取り頂いて結構です。
長い時間ご協力ありがとうございました」
「えっと…確認ですけど…オレが黒澤に怪我を負わせた件については…」
「ご心配なく。これだけ証拠もありますし、正当防衛として認められますよ」

オレはようやく体から緊張が抜けていくのが分かった。
深く息を吐き出し、お辞儀をした。

「ありがとうございました。黒澤の件、よろしくお願いします」
「了解しました。あなたたちが安心して暮らせるように勤めますので」

もう一度お辞儀をして、取調室のドアを開けた。

「…………へ?」
「……お疲れ様」
「ユキヒロ…?何で、ここに……?」
「やっぱり心配で…」
「そうか…ありがとな……」
「……で、どうだったの?」
「大丈夫や。正当防衛やし、黒澤の動機も分かってもらえた」
「良かった……」

目に涙を溜めて抱きついてきた。

(おいおい…こんな人前で…)

そう思ったが、言うのはやめた。
6時間以上、一人で不安な思いで待ってたんだ。
そう思うとユキヒロの事がいっそういとおしく思えた。
背中に手を回し、力を込めて抱きしめてやる。

33


「ヒューヒュー、熱いねえお二人さん!」

突然廊下の向こうから声がした。
驚いて顔を上げると見慣れた顔がこちらに歩いてくる。

「和泉さん!?」
「なんで!?」
「イヤー、野方署から川口の事件について照会があったって
職場から電話かかってきたんやけど、
なんかいやな予感がしたから車でちょっくら来てみたら
案の定…って感じやね。まあその様子なら…大事もなさそうやね」
「ええ…おかげさまで」
「ああ、ここに来る前に病院行って来たけど…」
「黒澤は…どうですか…?」
「正直結構危ないらしい…けど、お前にあいつの命なんか背負わさんからな」
「……すいません、色々、ホンマに……」
「ありがとうございます」
「ええって!ええって!w それより眠いやろ。早よ帰ってゆっくり寝え」
「あ…和泉さんは…?」
「オレは有給取ったから、ここで仮眠してからまた大阪に帰るわ。
あー、あとここの連中にあの事件の事しっかり説明しといた方が良いかな…
まあなんにしても一回寝てからやね」
「そうですか、良かったら、うち来ませんか?散らかってますけど…」
「ハハハw ゲイ2人と一緒に寝るのは怖いなw パンツ脱がさんといてやw」
「タイプやないです!www」
「オレだってしたくないですよ!!w」
「ほな、お言葉に甘えさせてもらおかな」

警察署のロビーから出ると、東の空が紫色に染まっていた。

032. 一緒に笑い合える関係

コンビニにあったのはおつまみ用の個包装のクリームチーズだけだった。
1箱じゃ足りないので4箱買った。
コンビニを後にして、帰り道にオレは疑問に思ってた事を聞いた。

「でも…なんで急にうちに来たの?」
「え…イヤー…」
「……あー、康太と喧嘩したんだろ」
「…喧嘩っていうかまあ…うん」
「慶吾は昔からそうだったからな。
彼氏と喧嘩したらメールとか、電話とか、うちに来て愚痴ってw」
「そうだっけ?」
「そうだよ。で、何があったの?」
「オレは2人でSex and the Cityを見たかったから
わざわざDVD借りてきたのに、
康太がそんなの見るよりゲームしようって言うから…」
「……は?」
「楽しみにしてたのにそんなの呼ばわりはないと思わない!?」
「お前ら…長続きするわw」

家に着いた。台所でクリームチーズを取り出しながら言った。

「で、どうするの?」
「え?」
「仲直りしたいんでしょ?」
「…うん」
「まあそうだろね。だからうちに来たんだもんねえw」

そう言いながらカバンからケータイを出す。

「あっ!」
「どうしたの?」
「メール来てた。泰三さんかな…」

マナーモードにしてたから気付かなかったみたいだ。
ドキドキしながらメールを開く。

「……メルマガかよ!」
「まあ…気長に待とうよ」
「そうだね…」

とりあえず康太をうちに呼ぶことにした。
もう二人を許して随分経つけど二人一緒に会うのは何気に初めてだった。
10分後、康太がやってきた。

「よう…」
「いらっしゃいませ」
「慶吾いるのか…?」
「もちろん」
「…帰る」
「ハイ上がって!」
「ちょ!ちょちょちょ!!」

オレは康太の手を引いて無理矢理引きずっていった。

「とりあえずオレはティラミス作りで忙しいから
二人で勝手に話し合ってて」
「え…」
「ユキヒロー…」
「甘えない!」

生クリームを泡立てる。
しっかりと泡立ったら卵黄と砂糖を混ぜ合わせながらお湯を沸かす。
お湯が沸いたらコーヒーを溶かし、カルーアと混ぜてシロップを作る。
卵黄にクリームチーズを混ぜてホイップクリームを混ぜる。
あとはスポンジの代わりのビスケットにシロップを塗ってクリームと重ねるだけ。
あっという間に出来たけど…話し合いは進んでるのか…。

(まあ…期待は出来ないだろうな…)

リビングのドアを開くとやはり二人は黙ったままだった。
どう見ても仲直りしたようには見えない。

「仲直りした?」
「……」
「ねえ、二人に聞くけど、自分のせいで相手が死んだらどう思う?」
「そんな極端な話…」
「どう思うって聞いてるの」
「そりゃあ…イヤだよ…悲しいし」
「オレも…」
「そうだよね。たとえば恋人じゃなくて友達だったり、他人でも嫌だよね。
今日ね、オレはね…そういう状況になったんだ」
「え!?」
「ユキヒロ…」
「泰三さんも昔そういう思いを経験してる。
だから今日、命をかけてオレを守ってくれた」
「一体何が…」
「詳しい話は、泰三さんが帰ってきてから話すよ。
今オレが言えるのはこれだけ。あとはお前ら次第」
「……」
「………ゴメンな」
「康太…オレの方こそ…ゴメン」
「…よろしいw 生きてりゃなんだって出来るんだから
喧嘩なんてバカらしいでしょ?
さて、オレは最後の仕上げやるから、
合体しなけりゃ乳繰り合ってていいよw」
「……ムリw」
「さすがにここじゃなあw」
「バーカ、本気にすんなよw」

キッチンに戻って仕上げをする。
ビスケットをシロップに潜らせてガラスの皿に敷く。
その上にクリームを重ね、またビスケットを敷く。
皿にクリームを載せて、最後にココアを振ってミントの葉を飾る。
小さいグラス3つにも同じように小さなティラミスを作った。

「ハイ。お前らの分」
「え、いいの?泰三さんより先に食べて」
「なんか悪いな…喧嘩の仲裁してもらって、お菓子まで」
「いいよ、オレも一人で心細くてどうかなりそうだったから。
それに生きてりゃなんとでもなるって自分自身でも気付けたから。
オレも泰三さんを困らせないように、しっかりしなきゃね」
「お前、強くなったな…」
「泰三さんのおかげだよ…全部」

泰三さんがいなければオレは…
いまだに康太との事を引きずってただろう。
早く帰ってきて欲しい…泰三さん…。

031. 震えた気がして電話を見て

「名前と、年齢と、職業は?」
「橋口泰三、32歳です。自動車整備やってます」
「状況説明してもらえるかな」
「ちょっと長くなりますが、
12年前に浪速警察署の川口龍次巡査殺害事件がありました。
オレはその川口巡査と当時付き合ってました」
「え、ちょっと待って、という事は…おたく、ホモ?」
「そうです。今日一緒に居たのは恋人です」
「……ああ…あ、そう……えっと、続けて」
「川口巡査が覚せい剤取締法違反で逮捕したのが
黒澤優…あの男です。刑期を終えて出所したものの、
川口巡査に恨みを持ち、殺害しました。
その事件で黒澤は再び逮捕され、懲役12年の判決が出ました…。
そして12年後出所してきた黒澤は、
刑務所の中で川口巡査に甥がいる事を知り、
…どうやって調べたかは知りませんが、東京にやって来ました。
その甥が今のオレの恋人です」
「ちょっと整理します…
黒澤優がかつてのあなたの恋人の川口巡査に恨みを持ち、殺害…
そして実刑判決を受け、服役…
その服役中に川口巡査に甥がいる事を知り、東京に来たと…」
「そうです」
「なんで川口巡査の甥を襲う必要があったんですかね」
「それは…」

***

泰三さんは事情聴取を受けるとかで警察に連れて行かれてしまった。
そのあとすぐに救急車が来て、黒澤を乗せて走っていった。
泰三さんが足払いで倒した時、
払いのけたナイフが背中に刺さってしまったらしい。
これって…正当防衛だよな、泰三さん捕まらないよな…?
そう考えただけで恐ろしくて体が震えだした。

「ヒヒヒヒ…きも、…きもち…いい……ww」

かすれた声で笑いながら救急車に乗せられる黒澤が
最後に発した言葉が頭をよぎる…。

(クソ!あんな…あんなやつのせいで泰三さんが逮捕さr…!?)

その時ポケットに入れたケータイが震えた気がした。
慌てて取り出した…が、液晶には何も表示されてなかった。
着信ランプも光ってない。

(気のせいか…)

「心配すんな。すぐ帰ってくるからな。
久しぶりにお前のティラミス食いたいから作って待っててくれるか?」

パトカーに乗る前に泰三さんが言ってくれた言葉を思い出す。
ベッドからのろのろと起き上がり、冷蔵庫を開ける。
泰三さんと付き合い始めて、色々食材は買うようにしていたが…

「マスカルポーネ…切らしてるよ…バカ…」

スーパーはもう閉まってる時間だし、
コンビニのクリームチーズで代用するか…。
オレは財布を持って玄関のドアを開けた。

ゴッ。

「イテテテテテ……」
「あ、すいませ…慶吾!?何で?」
「ごめん、下がちょうど開いてたから直で来たんだけど…」

慶吾の顔を見た瞬間、現実に引き戻された。
黒澤の事、泰三さんの事、全部夢かもしれないと思ってたけど

(やっぱり本当…なんだ…)

足に力が入らず、立てなくなってしまった。
ヘロヘロとその場に座り込む。

「おい、どうしたんだよ!?」
「う…うん、実は……」

***

「つまり…川口巡査と付き合っていたあなたが
川口巡査そっくりの甥っ子さんと付き合っている様子を
12年前の川口巡査と重ね合わせた黒澤が
あなたの恋人を殺害しようと襲ってきたという事ですね」
「はい。それで、夜道で襲われたんです。
とにかくあの時は黒澤の動きをどうにかして封じる事しか
頭にありませんでした。」
「それで、足払いをして倒した結果、背中にナイフが刺さった、と…」
「そうです」
「……分かりました。12年前の事件とも関わりがある様ですので
浪速警察署に問い合わせてみます。少しお待ちいただけますか」
「ハイ」

***

「え…?どういう事?襲われそうになったって…?」
「えっと…何から話せばいいのかな…
まず泰三さんが12年前に付き合ってた人が警官で…
その人が逮捕した犯人が、恨んでその人を殺して…
刑務所の中でその警官には甥がいるって事を知って…
それがオレで…それで、オレを…こ…殺しに…」

そこまで言って怖くなった。
体がガタガタと震えだした。
慶吾の手が肩に置かれた。
慶吾の手も震えていた。

「で、でも…ちゃんと生きてるじゃん…
そういえば、泰三さんは…?」
「泰三さんが…黒澤を…その男を…やっつけてくれた…」
「え、そ…そう、良かったじゃん!」
「でも…黒澤に重傷を負わせて…今、警察に……
すぐ帰ってくるから、ティラミス作って待ってろって……
もう11時半になるのに……」
「…………」

慶吾は黙って立ち上がって、手をこっちに差し伸べてきた。

「…買い物行くんだろ?ホラ」

オレは黙ってその手を握り返した。
グッと腕を引いて立ち上がらせてくれた。

「ありがと…」
「大丈夫だって!どう考えても正当防衛じゃん!
早く買い物済ませて作ろう。
じゃないと泰三さんすねちゃうよw」
「そ…そう、だよ…ね。うん、そうだよね」
「そう!大丈夫だから!」

慶吾の笑顔がいつになく頼もしかった。
そうだ。待ってる事しか出来ないんだったら
泰三さんの喜んでくれるようなおいしいティラミスを作らなきゃ!
俺達はコンビニへと急いだ。

030. edge

「ふざけんなよ…!クソが!!」

黒澤の顔面めがけて拳を打ち込んだ瞬間
視界から黒澤の姿が消えた

(下か!)

下を見る。次の瞬間にはナイフが目の前にあった。
右腕で反射的に払いのけ、続けざまに肘打ちを食らわせる。

ガッ!

またかわされた。
当たりはしたがダメージにはなってないだろう。
右の頬がズキズキと痛む。
頬を温かい血が流れていくのが分かった。
血が顎から鎖骨にポタポタと垂れる。
ナイフをかわしきれなかったらしい。

(クソ…丸腰だと分が悪いな…)

間合いを一旦開く。
ユキヒロはさっきから動けなくなっているようだ。

(黒澤の野郎…!ユキヒロを守るためやったらオレは…)

もう一度ユキヒロの位置を確認しようと
一瞬後ろに気をやった隙に黒澤が襲い掛かってきた。

「あっ!」

気づいた時には黒澤はもう既に目の前にいた。
喉を狙ってナイフで突いて来た。
すぐ後ろにはユキヒロがいる!
よけるわけには…!!

ガシッ!!

咄嗟に黒澤の右手を掴んだ。
喉ギリギリのところでナイフが止まる。
クソ…力じゃ負けないつもりだが…互角か…それ以上だ。

「いひひいいいぃ。あの時の事、思い出すなぁあぁああぁw
興奮してきちまったぜえぇw」
「変態野郎…地獄に堕ちやがれ…!」
「うひひ。男同士でサカり合ってるお前らも、変態じゃねぇかよおぉwww」

その言葉にオレの中で何かがキレた。

「お前みたいなキチガイと一緒にする…なぁあああ!」

怒りにまかせ右手に渾身の力を込めて黒澤の手首をひねり上げた。


ボキ…ッ、ゴキッ!


黒澤の手首がありえない方向に曲がった。

「ぁあああああははあはああぁぁ!!んぎも゙…ぢ、い゙ぃいwwwwww」
「くたばれ!」

完全に目がイッている。
続けざまにボディブローを入れる。
黒澤の手からナイフが落ちた…
騒ぎを聞いた誰かが通報したのか、
パトカーのサイレンの音が近づいてきた。

(よし…これで警察が来れば…)

しかし次の瞬間、
黒澤は左手で落ちていくナイフをキャッチし、
オレに向かって突き出してきた。

「……っ!!」

オレは咄嗟に右手でナイフを掴んだ。
しかし目測を誤り、刃の部分を掴んでしまった。
焼けるような痛みが右の掌に走る。

(ぐっ…!!)

このままだと形勢逆転もありうる。
左足ですばやく黒澤の右手を蹴り上げる。
関節がイカれているからダメージはでかいはずだ。
予想通り黒澤は呻き、ナイフを握っている手から一瞬力が抜けた。

(今や!!)

ナイフを持った手を払いのけ、喉を押しながら足払いをした。
黒澤は派手な音を立てて地面に倒れた。
パトカーのサイレンがすぐ後ろまで来て止まった。

「ヒヒヒ……気持ち…いいぃ……」
「ハア…ハア…」
「君達!何やってるんだ!!やめなさい!」

黒澤は起き上がる気配を見せない。
警官の駆け寄ってくる足跡が近づいてくる。
頬と掌はまだじんじんと痛む。
黒澤の背中の辺りから黒い水のようなものが湧き出してきた。

(……血?)

ニヤニヤしながらこちらを見つめる黒澤から、オレは視線を外せなかった。

029. ずっとキミを守りたい

駅からマンションまではなるべく広い通りを選ぼうと電車の中で言った。
本当は何も言わずに適当に理由をつけていつもと違う道を選びたかったが
うまい理由が思い浮かばなかった。
ユキヒロはそれでも笑顔で「ありがと」と言ってくれた。

しかし、ユキヒロの家の周りは結構静かな住宅街だから
大通りからすぐにマンションの入口というわけには行かない。
たぶん黒澤も警察に通報されてないなどとは思わないだろう。
自分に捜査の手が伸びる前に行動に移すはずだ。
とにかく何があってもユキヒロを守る。

そしてユキヒロの家が近くなってきた。
まだ9時過ぎだから電気が点いている家がほとんどだが
道を歩く人通りは随分と少なくなっていた。
街灯が切れかけた交差点が近づくと
ユキヒロは少し不安になってきたようで
オレのシャツを掴んでキョロキョロと周りを見渡している。
空には頼りなく輝く星がまばらに瞬いていた。

「大丈夫やから。な」

右手に持っていた紙袋を左手に持ち替え、
肩を抱いてやろうとした時、
奇声とともに何者かが路地から飛び出してきた。
次の瞬間ギラリとした光が目に映った。

「…!!」

とっさに右手でユキヒロを突き飛ばす。
そのまま右足を軸に左足で「その方向」に蹴りを入れた。

ガッ!

衝撃が軽い。狙いが外れた。
あるいは相手が避けたのか…。
消えていた街頭が点滅した。
その光が照らし出したのは…

「黒澤……っ!!」

あの時と同じ、忌々しい笑みを浮かべていた。
高く掲げた右手にはナイフがしっかりと握られていた。
龍次さんを殺した男が、今目の前に居る…。
オレは体の中で暴れまわる恐怖を感じたが
それと同時に龍次さんを奪われた悔しさが燃え上がり
武者震いが止まらなかった。

(ユキヒロには指一本触れさせん…!!)

次の瞬間、黒澤の腕が振り下ろされた。
空を切る音がした。
反射的にその腕をかわす。そしてもう一度相手に蹴りを入れる。

ドカッ!!

今度は確実にヒットした。
黒澤は呻きながら飛びずさった。
オレもユキヒロのいる方に後ずさりし、
黒澤との距離を開ける。
奴を睨んだままユキヒロに囁く。

「立てるか?今すぐ逃げろ」
「で…でも…」
「うひひひい…久しぶりだなあ」
「黒澤…何でユキヒロを狙う?」
「あははぁぁ……お前、知らないのかあぁ?」
「…何や?」
「おまえはぁ、恋人の事を、なぁーんにもぉ、知らないんだなあぁぁw」
「…………どういう事や」
「龍次もぉ……ユキヒロもぉ……本気で愛して、ないんだなあぁぁw」
「……龍次さんと…ユキヒロ……?どうい…まさか!?」
「…泰三さん……?」

黒澤は嬉しそうにニヤニヤしながら
ゆっくりとナイフでユキヒロのほうを指した。

「お前は……川口龍次の……甥だよw」
「………龍次さんが…オレの……?」
「泰三も鈍いよなぁあぁwこぉおんなにそっくりなのになあぁww」
「そ…それがユキヒロを狙う理由やと!?どういう理屈…」
「あいつの血縁はみんな死ななきゃイヤなのー!!」

まるで子供が駄々を捏ねるような口ぶりだ。
ふざけているように笑う。

「龍次は両親も、姉も…とっくに死んでたが…刑務所の中で聞いたんだよ
あいつにまだ…血のつながった甥が居るって…
両親を事故で亡くして、親戚に引き取られたってなぁあぁw」
「だからってこいつは関係ないやろが!」
「そうだなぁ…お前がユキヒロと付き合ってなければなあぁw」
「!?」
「どんな奴かと思って…情報をかき集めて…東京にやってきてみりゃあぁ
あいつが愛したお前が…あいつにそっくりの甥と愛し合ってる…
その時…龍次が生き返ったんだよ…オレの中でなぁああぁ
殺さなきゃなあぁ、オレの気が済まねーんだよぉw」

ユキヒロは完全に言葉を失ってしまっていた。
自分の愛した人の過去の恋人が自分の叔父であったというショック
そして自分の命が危険にさらされているという恐怖…
こんな奴に…こんな理由でユキヒロの命を奪わせるわけには…いかない。

「お前に…ユキヒロは…殺させへんぞ!」
「あははぁぁwジャマするなら…お前も殺しちゃおっかなぁああぁw
またケツ掘るくらいで許してやろうと思ったのになあぁああw」
「ふざけんなよ…!クソが!!」

オレは頭に血が上り、次の瞬間黒澤に襲い掛かっていった。

028. 見えない角度で

ショップを出て本屋に向かう。
夕焼けの空を横目に見ながらエスカレーターを下り
エナメルバッグに財布の入った紙袋を仕舞った。
店に着いて入口から中をうかがうと
棚の上からよく知ってる顔が飛び出していた。

「お待たせ!」
「おう、結構早かったな」
「うん、たいした用事じゃなかったからね」
「そうか。これからどうする?」
「んー。まだ晩ご飯には早いよね」
「そうやなー。じゃあゲーセンでも行くか」
「ゲーセンかあ。当分行ってないなあ。面白そう。行こ行こ!」

というわけでゲーセンにやってきた。
パチンコ屋みたいに騒然としている。

「へー、最近のゲーセンってすごいね」
「やろ。お、良かったドラムあいてるやん」
「ドラム?え、これどうやるの?」
「フフン。まあ見ててみ」

泰三さんは備え付けのスティックを握り
エレキドラムにテレビ画面がついたような筐体の前に座った。
コインを入れ、なにやら選択している。
画面が切り替わって音楽が流れると同時に
画面の上からいろんなバーが降ってくる。

(なるほど、タイミングを合わせて正しい所を叩くのか…)

それにしても泰三さんの腕前はすごく上手かった。
ドラムの事はよく分からないけど
なんか泰三さんの今まで知らなかった表情が
また見れた気がして、刺激的だった。
4曲で、正味10分くらいの時間だったけど見惚れていた。

「どうや?」
「すごく…かっこいいです……」
「やろー?w ま、ホンマもんのドラムとは全然違うけどな」
「泰三さんってドラマーだったの?」
「昔ちょっとな。最近はもっぱらゲームやけど」
「へえ。オレも手が治ったらやってみたいな」
「そうやな。また一緒に来ような」

そのあとはクイズのゲームを二人でやった。
1つの筐体に二人で並んで座ってやるから肩が密着してドキドキする。
ひとしきり遊んでからレストランフロアに行った。

「なに食べよっか」
「そうやなー。米食いたいな」
「じゃあ…ここは?」
「トンカツか、ええな」

二人でトンカツ定食を注文して食べた。
時々目が合うと泰三さんはニヤッと笑う。
オレもつられてニヤッと笑う。
こうしてたまに外で食べるのもいいな。
会計をする時に泰三さんの財布を見た。
良かった、新しいのに買い換えてはないな。
まあ、あんなボロボロになるまで使うくらいだから
そうそう簡単に買い換えないか。
ビルを出てちょっとした広場のベンチに座った。
生ぬるい夜風が頬を撫でる。

「ああ、旨かったな」
「泰三さんの料理の方がオレは好きだけどね」
「まあ、当然やなw」
「自分で言ってるしw あ、そうだ」

オレはバッグから財布の入った紙袋を取り出し
泰三さんに差し出した。

「何や?」
「えーと…プレゼント?」
「なんで疑問形やねん」

泰三さんは紙袋を受け取ると中からラッピングされた財布を取り出した。
包装紙をそっと開ける。

「これ…」
「…気に入らなかった?」
「イヤ、めっちゃ嬉しい…。でも、何で急に?」
「んー…特に理由はないけど、強いて言えばこれのお礼、かな」

包帯を巻いた右手をひらひらとかざす。

「それにもう今の財布、かなりくたびれてるし…。
思い出の財布なんだから大事にしなきゃ」
「…そっか。ありがとな」
「大事に使ってね。いい財布だから、長持ちするからね」
「おう、この財布がボロボロになったら、また新しいの買ってくれな」

そう言って周りから見えない角度でオレの手を握ってくれた。
胸がドキドキした。
泰三さんも顔が赤くなってる。
なんか甘い気持ちになって寄り添いたい気持ちになったけど
一応街中だし我慢した。

「よし、腹も膨れたし、そろそろ帰るか」
「うん!」

今日で夏期休暇は終わりだけどすごく楽しかった。
俺達は電車に乗って高円寺に向かった。

027. 夕焼けみたいに沈む気持ちを 胸にしまいこむ

泰三さんにせかされて服を着替えた。
右手が痛むから着るのが難しくて手間取ってたら
泰三さんが手伝ってくれた。

「よいしょ…ありがと」
「いつも思うけど、ユキヒロはおしゃれやんな」
「そう?うちのショップの型落ちだから
ホントにおしゃれな人から見たら1年遅れてるよ」
「そうなんやー。
…オレみたいなジャージと一緒で恥ずかしくないか?」
「自慢の彼氏と一緒で恥ずかしいとでも?」
「イヤ…オレもちょっとくらいは、服装に気を使おうかと…」
「うーん…このままでもいいけどなぁ…
じゃああとでうちのショップ行ってみようか?」
「おう」

そして玄関まで来た。
ゆうべの事が蘇った。ノブに触るのが少し怖い。
躊躇してるのがばれたらしく泰三さんが

「ホレ」

と後ろから手を伸ばしてドアを開けてくれた。
せっかく泰三さんが明るく振舞ってくれてるんだから
オレもずっと沈んだままじゃいられないよな。
振り返って閉まりかけたドアをかかとで押さえて泰三さんを見上げた。

「ありがと」

そう言ってキスした。
泰三さんはきょとんとしていたが、ニコッと笑って抱きしめてくれた。

食事は例の定食屋さんに行った。
暑いし精をつけなきゃねと言う事でうな丼を二人で食べた。
そのあとショップに行ってみた。

「あれー名取君、珍しいじゃない休日に」
「どうもーお疲れ様です」
「え?その右手どうしたの?」
「ああ、ちょっと火傷しちゃってw
今日は彼に合う服があるかなと思って来てみたんですけど」
「ど、どうも…」

泰三さんは初めてこういう店に来るみたいで
完全に挙動不審になっていた。

「わー、背、高いんですね!体格もいいしー!ちょっと名取君いい?」
「ハイ、ちょっと待っててね」
「お、おう…」

そう言うと蜜子*さんはオレの手を引っ張ってバックヤードにきた。

「ちょっと!超イケメンじゃないの!友達?」
「え、えーと…まあ友達というかなんというか…」
「イヤーン、超タイプなんですけど!あの逞しい腕に抱かれたいわー。
それにあのタンクトップの張り詰めた胸!逆三角形の体!
超ヤバいんですけど!どうしよう名取君アタシ化粧崩れてない!?」
「ちょ、蜜子さん、ダメですよ…」
「なんでよ!」
「彼、恋人いるんで…」
「そんなの奪っちゃうわよ!もうアタシもギリギリなのよ!必死なのよ!」
「勘弁してくださいよ、オレの身にもなってくださいよ」
「……チッ」
「チッって…。とりあえず型落ちのでいいから、
安くて彼に合いそうなやついくつか出してもらえませんか?」
「知らないわよもー自分で出せばー?」
「はいはい…」

泰三さんが脈なしと知ってすっかりすねてしまった。
カミングアウトしてないのでハッキリと言えないのがもどかしかったが
何とか諦めてもらえたようで一安心した。

***

「お、おかしくないか…?」
「まあジャージ姿見慣れてるからねえw
やっぱりラフなカッコの方がよさそうだね。
じゃあ…これかな」
「よいしょ…っと。ちょっと派手やないか…?(;´ω`)」
「うーん…やっぱり30代が着る感じじゃないかー。
じゃあこっちのシンプルなやつならどうかな」
「……んー、これはまあまあ、かなあ…どうやろ?」
「いいんじゃない?これなら結構似合ってるよ」

「名取君、まだー?」
蜜子さんの声がカーテンの向こうから聞こえた。

「あ、もう決めたんで、着替え終わったらすぐ出ますー」

元のユニクロのタンクトップに着替えて
泰三さんはようやくほっとしたようだった。
カーテンを開けて外に出る。

「で、どれにするの?」
「えっとこれとこれとこれ…あとこのタンクトップの色違いありましたよね」
「在庫あったかなー」
「ネイビーが確かあったと思うんで、あったらそれを」
「かしこまり〜。ちょっと取って来るわー」

蜜子さんはそう言ってバックヤードに消えていった。

「オイ…オレこんなとこで買ったことないから分からんけど
結構高いんやろ?いくらくらいなんや?」
「あー大丈夫、うち社員割引充実してるから、
あの組み合わせなら1万5000円以内で収まるよ」
「それでも1万5000円か…ユニクロとはえらい違いやな…(;´ω`)」
「お待たせ~。じゃあえーと…合計で1万3500円ね」
「あ、ちょっと…」
「どうしたの?」

オレはレジの横のガラスケースをチラッと見た。

「イヤ、なんでもないです」
「ほな…これでお願いします」
「ありがとうございます〜。1500円のお釣りです」

蜜子さんは服をてきぱきと紙袋に詰めていく。
それを泰三さんに渡した。
オレは店を出たところで泰三さんに耳打ちした。

「ちょっとだけ仕事のことで話があるから
下の本屋で暇潰しててもらっていい?」
「分かった。ほな料理本のコーナーに居るからな」
「うん、ゴメンね」

そういってレジの方に戻っていった。

「何?忘れ物?」
「イヤ、財布欲しかったの忘れてて…」
「フーン、なんで彼を行かせるのよ。
せめて目の保養くらいしたかったのに」
「イ、イヤー…ま、待たせちゃ悪いなと思って、本屋に。
本屋なら暇つぶしできるでしょ?
それにこういう店慣れてなくて緊張してたみたいだから」
「フーン…まあいいわ。で、どれにするの?」
「えっと…これ」
「はいよ」

そう言って蜜子さんはガラスケースから財布を出し、ラッピングし始めた。

「じゃあ1万円ね」
「え、社員割引で2万2000円じゃないんですか?
それにラッピング頼んでないんですけど…」
「『カレ』にあげるんでしょ」
「え?」
「好きなんでしょ?彼の事」
「は?な、なん…そんな、いやあの、ち…えーと…」
「女のカンなめんなよw」
「……御見逸れしました。…つーか、キモいとか…思ってます?」
「は?なんで?」
「イヤ…オレが、その…ゲ、ゲイだから…」
「なーに言ってんのよ、名取君は名取君でしょ!バカねー」
「…は、ハイ…」
「まあ…超タイプだったから残念だけど、
名取君の彼氏なら取る訳には行かないもんねw
お幸せにね」

そう言って蜜子さんは紙袋を渡してくれた。

「ありがとうございます」
「ハイじゃあちょうど1万円ね。まいどあり〜
ところでさ…」
「なんですか?」
「カレのヌード写メ送ってくんね?(*゚∀゚)」
「ダメです!」
「ハハハw 冗談だよwww」
「もう…それじゃ、お疲れ様です」
「はーい、おつかれさま」

オレは紙袋を持ってショップを後にした。
窓の外は夕焼けで空が綺麗なオレンジ色に染まっていた。

(泰三さん…喜んでくれるかな…)

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026. setting a trap

結局その日はユキヒロは精神的ショックから開放されず
オレはずっと一緒に居た。
ベッドで一緒に横になってユキヒロを抱きしめていた。

「大丈夫やから…オレが守るから」

同じような事しか言えない自分が不甲斐なかったが
ユキヒロはそのたびにうん、うん、と頷いてくれた。
夜が明けてコーヒーを淹れていたら電話が鳴った。
ユキヒロと二人でディスプレイを覗き込んだ。
番号が表示されている。
ユキヒロを見ると無言で首を振った。知らない番号らしい。
オレはゆっくり受話器を上げた。

「もしもし…」
「あーどうも、野方署の者ですが、名取さんのお宅?」
「ええ、そうです。何か分かったんですか?」
「いやね、あのスタンガンですがやはり指紋は出てません」

予想していたとはいえ、手掛かりがこれで一つ消えたわけだ。
オレは小さく溜息をつく。

「でもね、あのスタンガンねえ、連続放電時間がたったの8分なんですよ」
「8分!?たったの?」
「ええ、ですから目撃情報などもかなり絞り込めるんじゃないかと」
「ちょ、ちょっと待って貰えますか?」

オレは保留ボタンを押してユキヒロに言った。

「あのスタンガン、連続放電時間が8分しかなかったんやって」
「え、どう言う事?」
「要するにオレらがここに帰ってくる直前に仕掛けられたってことや。
誰かあやしい人間見かけんかったか?」
「んー…あ、そういえば」
「どうした?」
「なんか家のすぐ近くの角で、変な酔っ払いみたいな人にぶつかった。
すごいガタイしてて、目つき悪くて…」
「何?」
「フラフラしながら歩いていった…」

嫌な予感がした…。
オレは右手の人差し指で自分の右の首筋を指差した。

「なあ、そいつな…ここに…でっかい痣、なかったか?」
「え?泰三さんもその人に会ったの?」

オレは血液が凍りついたような
あるいは瞬間的に沸騰したような
捕らえようのない感覚に襲われた。

あの光景が蘇る。

あの日…12年前、オレを犯した男。
黒澤…。
あいつが…なぜ…ユキヒロを?
震える手で受話器をフックから外した。

「もしもし…」
「あーもしもし、何か心当たりでも?」
「黒澤です…」
「は?」
「12年前、浪速警察署の川口龍次巡査を殺害した、黒澤優です」
「えーと、随分唐突ですが…、何か根拠というか、証拠になるようなものは…」
「目撃証言だけですが…被害者が帰宅する直前に
黒澤と思われる人物とぶつかっています。
オレは12年前、川口巡査殺害の現場に居合わせた者ですが
その時の黒澤の特徴と、被害者の目撃した人物の特徴が一致したので…」

ユキヒロは驚きを隠せない様子でこちらを見た。
なぜまた黒澤が?ユキヒロの目はそう言っている様に見えた。

「なるほど…ちなみにその特徴というのは?」
「向かって左の首筋に大きな痣があったというものです」
「そうですか…ただ証拠としてはちょっと弱いですねえ…」
「そうかもしれませんが、黒澤の懲役期間は12年です。
数ヶ月前に出所しているはずです。調査してもらえませんか」
「そうですね、目撃証言は捜査の参考にさせていただきます。
今後もご協力をお願いするかと思いますがお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。
あ、あと…黒澤の件については浪速警察署の和泉警部が
当時取調べを含めて担当してくださっていたので
そちらに問い合わせていただければ詳しく分かるかと…」
「了解しました。そちらにも問い合わせてみます。それでは、失礼します」
「はい。よろしくお願いします」

オレは受話器を置いた。
ユキヒロが口を開いた。

「黒澤って…」
「あいつや…間違いない」
「泰三さん…オレ、どうしたら…」
「言ったやろ、オレが守るって」
「でも、相手は人殺してるんだよ!?嫌だよ!泰三さんも…」

オレはユキヒロの口を塞いで笑って見せた。

「オレは簡単に殺されへんよ」
「だって…」
「あんな穴のある仕掛けしてくるようなやつに負けへんって!
なんやねん連続放電時間8分て。一歩間違ったら意味なしやんw」

もちろんダメージを与えられなくても
郵便受けからスタンガンが出てくるだけでもショックだと思うが
そんな事を言っても意味がない。
恐怖から逃げるんじゃなく、打ち壊さないとダメだとは分かっていたが
必要以上に怖がらせる必要はない。

「な、だからメシでも食いに行こうや。
優秀なボディーガード様が居るから安心せえって!」
「様…かw」
「お、今笑ったな?この!」
「イ、イヤ!笑ってな…なんk…ヒャハハハハ!
ヤダ!ヤダ!わき腹わき腹!!」

8月の連休最終日。
窓の外から聞こえるクマゼミの声を二人の笑い声がかき消した。

025. JUMPER(後編)

シリコンのキーカバーが絶縁してるが
鍵が熱くなってきたようできな臭い臭いがしてきた。
オレは我に返って鍵をノブから離した。

「だ、大丈夫か!とにかくこれをどうにかせな…」

オレはドアを注意深く観察した。
マンションにありがちな表面が金属製のドアだ
中も金属かは知らないが、ノブや鍵穴も金属で出来ている。
鍵を開ける時に感電しなかったのはおそらく
ユキヒロが自宅の鍵にシリコン性のキーカバーをつけていたためで
たぶんこのドア全てが帯電してると考えた方がいいだろう。
という事は一見分からないところから電流を流す事も可能という事か。

少し背伸びをしてドアの上部分を覗く…何もない。
ドアの下もじっくりと見てみるが何もない。
ノブが付いている方にも、蝶番が付いている方にも
仕掛けがしてある様子はない…。

(どういう事や…どこから電気が流れとるんや)

ユキヒロをちらりと見る。
左手で右手を握り締めている。痛むのだろう…。
早く手当しなければ…でも焦ってはダメだ。
どこかに盲点があるはずだ…どこかに…!

その時郵便受けが目に入った。
ものぐさなユキヒロはよくチラシが差し込まれたままで放置している。
それを毎回オレが来た時に来て整理していた…。
大阪に行く直前にも整理したから今何も入ってないのは不自然じゃないが…
他の部屋の郵便受けに目をやると、
全ての部屋に同じチラシが1枚だけ挟まっているのが見えた。
つまり大阪に行って帰って来る間に1枚はチラシが配られた…
なのにここにだけない…という事は!

オレはズボンのポケットからボールペンを出した。
念のため分解して芯やバネなどの通電性の物を全て取り外し、軸だけにする。
そしてそれで郵便受けのふたをそっと押した。

バチバチッ!

乾いた音を立てて蓋との間に何本かの稲妻が走る。
そして…

(見つけた……!)

郵便受けの口に導線が固定されていた。
ご丁寧にもハンダ付けだ。
そしてその線が郵便受けの中へと続いている。
何かがこの中で電気を発しているのは確かだった。
幸いここのドアノブはまわすタイプじゃなく、
取っ手を引くと開くようになっていた。

「ユキヒロ、大丈夫か。おまえんち、ゴム手袋あったよな」
「え…?え、…あ、うん…」
「よし、もうちょっと我慢してくれな」

そう言ってオレは周りを見渡す。絶縁体になるようなものは…
ユキヒロのカバンにペットボトルが入っていた。
中身を排水溝に流し、雑巾を絞るようにひねり、細くする。
それをドアに触れないよう注意しながら取っ手に通して引いた。
ドアが開いた!オレはユキヒロに

「まだそこに居れよ!」

とだけいい、中に入った。
ゴム手袋を探す。あった。幸いにも何枚も入っているやつだ。
念のため3枚重ねで付け、郵便受けに恐る恐る触れる。
電流は流れない。よし!蓋を開ける。
そこからゴロリと出てきたのはスタンガンだった。
その電極に導線がつながっている。

「クソ!誰がこんなもの…」

スイッチを固定しているグルグル巻きのテープを剥がす。
念のために電池も抜いた。これで電気は止まったはず…。
手袋を外し、プラスチックのキートップが付いた鍵をドアノブに近づける。

カチ…

静かに硬い音を立てて鍵がノブに触れた。
電流は無事に止まったらしい。
ドアを開けてユキヒロを招き入れる。
ユキヒロはまだどこか呆然としているようだった。

とりあえず警察に連絡をし、状況説明をした。
ゴム手袋をしていたおかげでオレの指紋は付いていない。
たぶん犯人も絶縁用の手袋をしてこの装置を仕込んだだろうから
証拠は出ないかもしれないが…
と頼りない一言を残して警官は帰っていった。
部屋は暑いのに薄ら寒い沈黙が流れた。
ユキヒロのかすれた声が聞こえてきた。

「泰三さん…」
「どうした…?まだ手が痛むか?」
「……泰三さん…」
「…大丈夫や、オレが守るから…」

包帯を巻いた右手に、そっと手を重ねた。
左手で肩を抱いた。
ユキヒロがしがみついてきた。カタカタと小さく震えている。
怖いに決まっている。何の前触れもなく生活が脅かされたんだ。

オレは体温がユキヒロに伝わるように、
ゆっくり、力を入れて背中を撫でた。
ユキヒロを守りたい。安心させたい。
でも、言葉が出てこなかった…。
抱きしめる事しかできない自分がもどかしかった。
この気持ちが電気のようにユキヒロに伝わればいいのに…。
でも言葉だけじゃない。きっと、伝わってるはずだ。

ユキヒロは…オレが、守る。続きを読む

024. JUMPER(前編)

俺達はそれから少しイチャイチャして北欧館をあとにした。

時間は15時を回ったところだが、堂山の外れにあるゲイバーが
カフェタイムとして営業しているらしいというので行ってみることにした。

「こんちわ」
「いらっしゃーい。あ!たー君?」
「トッシー久しぶり!」
「えー久しぶりぃ!すごいマッチョになったじゃない!」
「そらがんばって鍛えとるからw こいつ、恋人のユキヒロ」
「どうも…」
「えー、昔の龍ちゃんにそっくりじゃない!カワイー♪
 トシヤです、よろしくー」
「とりあえずー…アイスティーにしようかな」
「あ、オレも」
「りょーかい♪おきゃん*、アイスティー2つね」
「はーい」

カウンターの中に居たもう一人の店員が
グラスにアイスティーを注いで持ってきてくれた。
坊主に顎髭で厳ついけど物腰の柔らかい
いわゆるイカニモ系*の店員だった。

「はじめまして〜、おきゃんてぃーです♪」
「あ、はじめまして…ユキヒロです」
「どうも、泰三です」
「今日はヒマなんでゆっくりしてってくださいね。あ、今日も、かなw」
「あんたケツの穴布団針で縫うわよ」
「ちょw シャレならんwww 泰三さん助けてwww」
「ダメ!泰三さんはオレの彼氏なんだもん!」
「ゴメンゴメン、冗談よ。
人の彼氏奪おうって思うほどアクティブじゃないわよw」
「あ、ごめんなさい、つい…」
「すぐムキになる辺りを見ると…2人はまだ付き合いたて?」
「3ヶ月やから…まあ、そうやね」
「それにしてももう…10年位だっけ?最後にここに来て」
「12年やね、オレが20歳の頃が最後やから」
「え?泰三さん未成年の頃から堂山来てたの?」
「そうよー。この子夜な夜ないろんなお店でいろんな事してたのよー」
「コラ!嘘つくなや!w龍次さんに連れられてここに来てたくらいやで」
「まあ、龍次さんお巡りさんだもんね」
「むしろ未成年に酒飲まそうとするようなダメ警官だったけど、
 まあイケメンだったよねー」
「トッシー1回、周年*のときかなんかでドロドロに酔っ払って
本気で龍次さんの事口説いてなかった?」
「マジ!?覚えてないわーw」
「オレ覚えてるで、まああん時まだガキやったし、
なんやねん龍次さんに絡みやがってこのクソガマ!って思っとってさあw」
「ひどーい」
「アハハ」

ゲイバーに来たのは本当に久々だったから面白かった。
帰りの新幹線の時間が近づいてきたので別れを告げて店を後にした。

***

「やっと池袋かあ…」
「ほな、オレは一回荷物置いてから来るから、またあとでな」
「うん。待ってるね」

そう言って泰三さんは降りていった。
オレは一人山手線に揺られて新宿まで。
新宿で中央本線に乗り換える。
高円寺について家の鍵を弄びながら夜道を歩く。
ちょっと喉が渇いたのでコンビニに寄った。
雑誌コーナーをふと見ると気になっていた雑誌があり
つい立ち読みしてしまった。

(ヤベ!泰三さん来るのに!)

慌ててお茶を買って飲みながら家路を急いだ。
自宅のマンションが近づいて気が緩んだのか
角を曲がった瞬間に人とぶつかった。

「あっ、スイマセン」
「おっとぉ、ごめんよぉお〜w」
(うわ、でっかい痣だな…火傷かな)

左の首筋に大きな痣があるその人は
酔っ払いみたいな感じでヘラヘラしながら歩き去って行った。
(すげー体格だったな…泰三さんレベルだった)
そんな事を考えながら玄関のロックを外した。

「お!ちょうどよかった!」
「あ、泰三さん」
「お前寄り道したやろ」
「ゴメン、ちょっと気になる雑誌があったからつい…」
「しゃーないなーもう。よし、荷物持ったるから早よ行くで」

そう言ってオレのカバンをひょいと抱えるとエレベーターを呼んだ。
自宅のあるフロアまでついて鍵を開け、ドアノブを握った。

バチィ!

「あっ!!!」
痛みに思わず悲鳴が上がる。
「なんやねん、静電気か?大袈裟やな…って、オイ!大丈夫か?」

ドアノブに触れた部分の皮膚が真っ赤に腫れ上がっていた。
火傷したみたいになっている。

「……」

泰三さんはオレの手から鍵を取り、
少しずつノブに近づけた。

バチバチッ!

青白い電流が鍵とノブの間に小さな稲妻を作り出した。
ストロボのように明滅し、時に蛇のようにうねる稲妻…。

「なんやこれ……」

オレは何も言えず、ただ青白い光を見つめるだけだった…。続きを読む

023. あの日の思い出

ユニットバスに篭って準備を始める。

(勢いで言ったものの…ちゃんとできるんやろか)

少し不安もあったが
龍次さんの時はまったくの未経験から
気持ちいいと感じるようにまでなれたんだから
きっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。

正直まだあの時の事があって怖い気持ちもある。
だからと言っていつまでもユキヒロにばっかり
ウケをやってもらうわけにはいかないと思った。
あいつはタチリバなんだから、
タチりたいという気持ちは絶対あるはずだ。
オレがその気持ちを満たしてやらないと…。
お互いバニラ*で満足するほどウブじゃないし。

準備が終わった。いよいよだ…。

***

「く…うぅ…」
「ねえ、やっぱりやめようよ…指でもすごいきつかったのに…」
「だ、大丈夫、や…」

と言ったものの、12年ぶりだ。
龍次さんとの初めての時を思い出すような痛さだった。
体の力の抜き方は分かっていたつもりだったが
やっぱり「あの時」の事が無意識に緊張させるのか、
手が震えてなかなかうまくいかない。

「よいしょ…」
「どう、した……?」
「リラックス、して…」

上半身を起こした格好でユキヒロはキスをしてくれた。
右手で体を支えながら、左手で頭を撫でてくれた。

(あぁ、なんか落ち着…)

「ぐぁっ!っつー…」
「だ、大丈夫!?」
「リ、リラックスしたら…体の力、抜けて
 い、一気に入ってきた…ハハハ」
「一回抜く…?」
「イヤ…このまま…」

(なんか…あの時と似とるな…)

オレは龍次さんと始めて一つになった夜の事をふと思い出した。
そうだ、あの時と同じように…

「ゆっくり横になってみ…」
「うん…」

そのままオレも両膝を付いて上半身を倒し、
ユキヒロにしがみつく。
うなじに顔を埋め、香水の匂いを嗅ぐ。
滑らかな肌を撫でる。
少し顔を起こし、目を見つめる。

(大丈夫だ…あいつじゃない…怖くない…)

頭の中で何度も唱える。

「背中…さすってくれるか…」

ユキヒロはゆっくり背中をさすってくれた。
痛みが少しずつ引いていく。
背中をさすりながらニヤリと笑う。

「泰三さん…あの日の事思い出してるでしょ」

読まれてたか。

「ある意味2度目の初体験やからな…」

痛みは大分なくなった。
ユキヒロの目を見ていると不思議に怖さもなくなっていた。
少しずつ動き出す。忘れていたあの衝動がよみがえる。

「あ…、気持ち…よくなってきた…かも…」
「オレも、気持ちいいよ…」

嬉しかった。
ただ、一つになれる事が。
この先の事は…どうなるか、よく分からないけど
今こうしていられる事が幸せだった。
恐怖は、もう消え去っていた…。

***

「はー。久々にウケやったわあ…」
「トコロテンしなかったねえ(・ω・`)」
「元々そういう体質やからなー」
「でもなんか嬉しかった」
「ん?」
「これでタチでもウケでも一つになれたもん」
「ゴメンな、今までずっとウケばっかりやらせて」
「いいよ、ウケはウケで気持ちよかったから」
「でも、やっぱり…過去と向き合う事から逃げてタチばっかりやってきて
ユキヒロもタチりたいやろうなって思った事もあったけど
やっぱり怖くて踏み切れんかった…
今日も正直…怖かったけど…ユキヒロやったからできたんや…
おかげでトラウマが克服できた…。ホンマにありがとうな」
「いいよ、そんなかしこまらなくてもw」
「…そうか?」
「うん、オレだって泰三さんががんばってウケしてくれて
オレの事ホントに好きでいてくれてるんだって再認識できたもん」
「そうか」
「うん」
「これからはオレもウケできるから、タチりたい時は言ってな」
「了解ッス♪」

俺達はまた抱き合った。
ユキヒロの体温が幸せだった。続きを読む

022. 今からキミに会いに行くから

朝6時…
いつものように泰三さんの腕の中で目が覚めた。
いつもと違うのは、お互いの下半身がいつも以上に元気な事…。

「おはよう」
「おはよ」
「よう寝れたか?」
「うん。……あ、固いw」
「もー、こりゃしばらく起きられんわ」
「出す?」
「アホかw しりとりでもして落ち着かせるで」

エロい事を考えないようにとしりとりをすること5分…
ようやく落ち着いてきたので着替えて2階のリビングへ降りて行った。

「おはようございます」
「おはよう、よう寝れた?」
「はい、おかげさまで。和泉さんは…」
「かれこれ30分くらいトイレに篭ってるわ」
「相変わらず新聞ですかw」
「そうなんよ。もうそろそろ出てくると思うけど」

テーブルについてヨーコさんと話していると和泉さんが出てきた。

「おう、おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」
「ほな、メシ食ったらすぐ出るか」
「そうですね」

朝ごはんはご飯と味噌汁と納豆、焼き鮭だった。
関西人は納豆が嫌いだと思ってたけど
そういえば泰三さんも普通に食べてたな。
食事が終わると和泉さんと泰三さんと3人で出かけた。
龍次さんの眠っているお墓は近くだという事で歩いていった。

浄国寺というお寺に着いてバケツに水を汲む。
夜のうちに冷やされた水が気持ちよかった。
泰三さんが柄杓でお墓に水をかけ、オレが手でこすって汚れを落とす。

「うわ、冷たいw これ井戸水?おいしいのかなー」
「アホか。飲んだらダメに決まってるやろw」
「だって暑くなってきたんだもん」
「早よう川口に報告してやれやw」
「そうですね」

線香に火をつけ、お花を添える。
お墓の前に二人でしゃがみ、手を合わせた。

「龍次さん、やっとあの時の約束が果たせたわ。
こいつが新しい恋人やで。オレはもう大丈夫やから、安心してな」
「はじめまして。ユキヒロっていいます。
泰三さんのこと、幸せにします。見守っててくださいね」

「ひひひ。熱い熱いw」
「もう!和泉さん茶化さんといてくださいよw」
「ええやないかw
川口。こいつらのことちゃんと見といたれよ」

俺達の言葉に返事をするかのように
涼しい風がふわっと吹き抜けた。
八月の朝の空は青く透き通っていた。

一旦和泉さんの家に戻り、お礼を言って出発した。
大阪の観光をしたかったけど、
泰三さんに大阪は観光するとこやないと一蹴され
強引にお願いして歩いて行ける通天閣にだけ行った。
お昼は堂山町まで出て泰三さんのオススメの回転寿司屋に行った。
さすがに食い倒れの街と言われるだけあって安くておいしかった。

「さて…腹も膨れた事やし、軽く運動でもするか」
「運動?」
「昨日やってないやろ」
「……出たよw だから堂山だったんだw」
「イヤか?w」
「…大阪まで来て、っていう気もしなくもないけど…したいw」
「決まりやなw」

北欧館というサウナ*の個室を取って入った。
クーラーが効いていて気持ちがいい。
昨日キスしか出来なかった欲求不満を吐き出そうと
部屋に入った途端抱き合ってキスした。

「なあ…」

唇を離した泰三さんが恥ずかしそうに口を開く。
言いたい事は決まっているのに、恥ずかしくて言えないような
なんかそんな顔だった。

「どうしたの?」
「あの…な、えーと、今日は…そのー」

泰三さんの顔がどんどん赤くなっていく。
オレの首に回した手がモジモジと動いている。
早く続きを言って欲しかったが、オレは黙って続きの言葉を待った。

「オレが…う、ウケ…していいか?」
「……いいよ」

オレはニコッと笑って見せた。
こんな顔見た事ないけど、なんか、すげーかわいい。
泰三さんも嬉しそうな顔をして笑った。
そしてまた、キスをした。
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021. 2人の思い出を重ねて

カランコロンカラ〜ン

喫茶店のドアをあけるとドアベルが鳴った。
店は落ち着いた雰囲気で、
カウンターの中には中年の女性がいた。
客は俺達だけみたいだった。

「いらっしゃい。あ、橋口君!おかえり。今年もよう来たね」
「ご無沙汰してます、ヨーコさん」
「アラ…!え…?こちらは…?」
「ハハハ、そっくりでしょう。新しい恋人のユキヒロです」
「はじめまして。名取ユキヒロといいます」
「イヤー!ビックリやわ。こんなそっくりな人が居るもんなんやね。
あ、和泉の妻で、ヨーコ言います。旦那が川口君の同僚やったんですわ」
「よろしくお願いします」
「あの、和泉さんは?」
「非番やから寝とるよ。ちょっと待っとってね、
飲み物出したら起こしてくるから。とりあえず座り。何にする?」

俺達はカウンターに座った。

「えっと、アイスコー…あ、冷コー1つw」
「冷コーてw今時あんまり聞かへんよw」
「レイコー?コーラの事?」
「冷たいコーヒーで、冷コー。もう死語やなw」
「なるほどー」
「で、お前何にすんねん」
「あ、決めてなかった!えっと、えっと……」
「ゆっくり決めたらええよ」
「んー…じゃあ、ミックスジュース」
「はい、ミックスジュースやね」
「プwww」
「なにさー」
「イヤイヤ、なんでもないw」

アイスコーヒーとミックスジュース、
ガラスのボウルに入れられたチョコレートが俺達の前に並んだ。
ヨーコさんは2階に和泉さんを起こしに行った。
しばらくして40代の男性がカウンターに入ってきた。
和泉さんか…現役の警官らしくガッチリした体型をしている。
顔は全然イケなかったけどw

「いらっしゃい。橋口君。こちらが名取君か…
ホンマやわ、川口にそっくりやな」
「はじめまして、名取ユキヒロです」
「そっくりすぎやからなんか変な感じやわw」
「ですよね、僕も写真を見たときビックリしましたよ」
「それじゃあ、夕飯の支度するからゆっくりしとってね。
今日はご馳走やからね♪あんた、店番お願いね」
「はいよ」

そういってヨーコさんは出かけていった。

「もうあれから12年なんやな」
「ええ、早いもんですわ」
「橋口君も、やっと幸せになれたみたいやし、今晩はお祝いやな」
「いいんですよ、そんないつも通りで」
「え、今晩って…?」
「橋口君、毎年お盆に川口君のお墓参りに来てくれるから
その時はうちに泊まってもらってるんよ。
元々ここは、橋口君と川口君の家やったからな」
「え、それじゃあここが…」
「そう、龍次さんとオレが昔住んでた家やねん」
「そうだったんだ…」

チョコレートを一つ食べる。
口の中に少しの苦味と甘さが広がる。

「2人はもうすぐ1年?」
「イヤイヤ、5月に知り合ったばっかりやから、まだ3ヶ月ですよ」
「えー、そんな付き合いたてなんや?
なんかそういう風に見えんかったわ。
てっきり去年来てくれてからすぐに知り合ったんかと思ったわ。
ほな、今一番幸せいっぱいで甘い甘ーい感じなんや(*´∀`)」
「ええ…wまあそうですねw」
「夜とかどんなんなん?(*゚∀゚)=3」
「コラ!興味ないやないですか!www」

夕飯は焼肉だった。和泉さんと泰三さんはビール
ヨーコさんとオレは酎ハイで乾杯した。
2年前に伊勢原の叔父さんが病気で亡くなってから
帰省というものに縁がなくなっていたオレにとって
まるで親戚の集まりのような食卓はなんだかすごく楽しかった。
一晩お世話になるお礼にと、台所を借りて
夕飯前に買ってきておいた材料でレアチーズケーキを作った。
和泉さんもヨーコさんも喜んでくれた。

「おやすみなさい」
「明日早いから、パンツ脱いだりせんとゆっくり寝るんやでーw」
「和泉さん!下品やから!w」
「あ、ダブルベッドだ。いいのかな、こんないい部屋使わせてもらって」
「昔からここだけは変わってないな…」
「え…?」
「オレが住んでた頃と全く一緒やねん。
多分オレのために使わんとそのままにしてくれてるんやと思う」
「そうなんだ…」
「改築してお店出すときもいちいち相談して来てくれて…
もう和泉さんの家なのにな。ホンマに…」
「泰三さんも龍次さんも、いい人に恵まれてたって事だね」
「そうやな。さ…寝る前に」
「ん?」
「和泉さんは何もするなって言ってたけど、キスくらいはええやろ?」
「…うん」

ベッドに横になると、ゆっくりと抱きしめられた。
そして、優しく頭を撫でてキスをしてくれた。

(泰三さんは龍次さんとこうして寝てたのかな)

昔と今を重ねて少し胸が苦しくなったけど
泰三さんの体温は心地よかった。続きを読む

020. おいしいレシピ

新大阪駅は人でごった返していた。
地下鉄に乗り換えて難波まで来た。

「ホンマはこっから乗り換えて恵比須町いうとこに行くんやけど
せっかくやし、街ん中歩きながらいくか」
「うん!」

難波から日本橋方面に途中まで地下道で行き、
エスカレーターで地上に出る。
東京より少し雑というか、ラフな感じの街並みと
すれ違いざまに聞こえる関西弁が新鮮だった。

日本橋から南に下っていく。
西の秋葉原といわれる電気店街をぬけると
前方に通天閣が見えてきた。

「もうすぐやで」
「もうダメ…泰三さん、ジュース買ってー(;´д`)」
「もうすぐって言っとるやないか。我慢せえ」
「ケチー(・ε・´)」
「ホラ、ここが浪速警察署。龍次さんのいた職場」
「ここかあ…」

信号が青になった。
交差点を渡って100mもしないところに煉瓦造りの建物があった。
泰三さんはその前で立ち止まった。

「ここが、オレの元職場な。
時間もちょうどええし、ここでなんか食うか?」
「え…?」
「ホレ、行くで。こんちわー」
「いらっしゃいま…え、橋口……くん?」
「深雪さんやないですか。ご無沙汰してます」
「えー!?ホンマに橋口君なん!?別人みたいやん!いやー
店長!店長!!ちょっとー!」
「なんや、騒がしいなあ。なんかあったんか?」
「橋口君!橋口君が来てくれたんよ!」
「ホンマか!?ゼビウスのスペシャルフラッグ並みにレアやん!」

厨房からドタドタと足音が近づいてきた。

「イヤあの、お気遣いなく…(^_^;)」
「おお!よう来たなあ、って、うーわ!すっかり見違えて!
ますますガラが悪くなったんとちゃうか?」
「店長も相変わらず口が悪いっスねえw」
「えっと…こちらは……?えらい川口君にそっくりやけど…」
「ああ…コイツ、新しい恋人です。そっくりでしょう」
「ど、どうも…名取です。泰三さんが以前お世話になっていたそうで…」
「イヤホンマそっくりやわ。ミラクルひかると宇多田ヒカルくらい似とるわ」
「深雪さん…微妙な例えはええからとりあえず座らせてくださいよw
コイツ干からびかけてるんですわw」
「ああ、そうやね。ゴメンゴメン。暑い中お疲れ様」

お店は1階は厨房とパンやケーキの販売で、
2階が食事できるようなつくりだった。
一番奥の窓際の席に通してもらい、冷たい水を貰った。

「えっと、じゃあBコース…」
「あっ!料理はこっちにまかしとき!」
「え、でも…」
「ええから、ええから。
せっかく久しぶりに来てくれたんやから言うて
店長も張り切ってるんよ」

深雪さんは嬉しそうに目を細めながら
他の客に聞こえないように小声で教えてくれた。

「じゃあ…お任せします」
「期待しといてな」

そう言うと深雪さんはウインクをして下に下りていった。
そして運ばれてきた料理は今まで食べた事がないような豪華なものだった。
テレビでしか見た事のないような高そうな料理が次々に運ばれてくる。
味も本当においしかった。

「でも…これすごく高いんじゃないのかなあ…?」
「ああ、さすがにオレもちょっと心配やわ…
まあ、お金は多めに持ってきたし、たぶん大丈夫やろ」
「んー…大丈夫、なのかなあ…」

***

「ちょっと、どういうことですか!」
「イヤイヤ橋口君、まあ落ち着いて」
「これが落ち着けますか!」
「泰三さんの言う通りです。僕も納得いきませんよ
何であんなにたくさん料理が出てきて2人で2,000円なんですか」
「イヤ、そのー…」
「ランチメニューはただでさえ粗利が低いのに…
絶対原価割れしてますよね、この値段」
「え、イ、イヤ…あの…」

鋭い指摘を受け、深雪さんは目を泳がせた。

「深雪さん、ホンマにオレら嬉しいですけど、
仕事はきっちりせなダメやと思うんです。
オレの経験からしてメニューに載せるとしたら
あれはランチ基準でも1人4〜5,000円の料理でしたよ。
やから、これ受け取ってください」
「あっ…あかんよ、橋口君」

そういいながら強引に一万円札を渡そうとする。
深雪さんは困ったように泰三さんの手を押し戻そうとする。

「橋口君…」
「あっ、店長」
「…店長がこの値段決めたんですか?」
「そうやで。橋口君、川口君亡くなってからホンマに落ち込んで
ホンマに…後を追うんちゃうかって心配になるくらいやった。
少しは元気になったけどそのあとすぐうちを辞めて、
そのまま東京に行ってもうたやろ…ずっと心配してたんやで。
今日、新しい恋人や言うて名取君連れてきてくれて
見違えるほど元気になった姿見せてくれて…
わしも深雪くんも、ホンマに嬉しかったんやで。
やから、今日の料理は元気な姿見せてくれたお礼なんや」
「店長…」
「わしらの気持ち、受け取ってくれるな?」

泰三さんは目を閉じ、溜息をついた。そして口を開いた。

「ダメです。サービスが露骨過ぎます。
他のお客さんからのクレームになりかねません。
やから、ちゃんとビジネスはビジネスとして割り切ってやってください」
「うぐ…そ、それやったら仕方ない…」
「分かってもらえたらいいんです。で、会計は1万円ですか?1万2千円ですか?」
「……名取君…こ、これを…(;´ω`)つ【写真】」

そう言って店長はポケットから何かの写真を取り出し、裏返して差し出してきた。

「…?なんすかこれ」
「橋口君がうちで働き始めた時の写真や…」
「……っ!!!!!!」

泰三さんが血相を変えて店長の手からその写真を奪おうとする。
店長はその手をヒラリとかわす。

「店長!何でそんな写真まだ持ってるんすか!!」
「ホホホ(・3・)あの頃の橋口君は今と比べ物にならんほどの…」
「うわー!わー!!!ユキヒロ!聞くなよ!」
「名取君…じゃあこっちを…は、橋口君の歓迎会の時の…(((;゚Д゚)))つ【写真】」
「深雪さんまで!!やめてください!!!」
「ホホホ(・3・)橋口君、今日の会計は一人1,000円やけど、ええかな?」
「分かりました!分かりましたから!!
2人ともお願いやから写真なおして*くださいよー!。゜゜(つ□`。)°゜。」
「泰三さん……(^_^;)」

あの泰三さんが泣きそうな顔で2人に懇願している…さすがだ。
…という訳で無事?店長の思惑通り食事代は一人1,000円になった。

「ご馳走様でした」
「ご…ご馳走様でした…(;´ω`)」
「名取君、橋口君をよろしくな。
橋口君、また遊びに来るんやで」
「ハイ、本当にありがとうございました」
「もう…写真処分しといてくださいよ…」

俺達は店長と深雪さんに挨拶をして店を後にした。

「はあ…疲れた…」
「もー。そんな恥ずかしがるような写真なの?」
「どんなんか話すのもおぞましいわ…」
「まあ、オレは今の泰三さんが好きだから
昔どんなんでも、全然気にしないよ」
「そ、そうか、ありがとうな」
「それにしてもおいしかったね」
「そうやろ?つーかメインの料理、オレが考えたレシピやった…」
「やっぱり?」
「え、やっぱりって?」
「イヤ、食材は食べたことがない様な高級なものだったけど
なんか味付けが…泰三さんの料理っぽかった」
「そうか…まあ、今のオレの料理の腕前は
あそこで磨かせてもらったんやもんな」
「それに、深雪さんも店長もいい人だった」
「……写真で元店員を脅すような人やけどな(;´ω`)」
「まだそんなこと言ってるー。ホントは泰三さんも好きなんでしょ?
だからあそこでお昼食べようって言ったんでしょ」
「まあな。深雪さんも店長も
オレがゲイやって知ってもそれまでと変わらず接してくれたしな…」
「あんなあったかい人のところで料理を勉強したから
きっと泰三さんの料理はおいしいんだね。また、来ようね。
…っていうか、次はどこに行くの?」
「もうすぐそこやで」

そう言って目線を前に向ける。
そこには小さな喫茶店があった。続きを読む

019. 桜咲く季節に離れ離れになっても

「動くな!!」

その声に目をやると、警察官が銃をこちらに向けていた。

「うひひい、殺せよw」
「来い!」
「あははははははは!!殺せ!殺せよ!!!」

男はもはや正常ではなかった。
笑いながら手足をばたつかせ、
警官に連行されていった。

「大丈夫か?」
「オレはいいから、龍次さんを早く!」
「大丈夫や、救急車がもうすぐ来る」

***

「龍次さん…龍次さん…」

オレは集中治療室のベッドに寝かされている
龍次さんの手を握り、名前を呼び続けた。
涙が次から次に流れ出して止まらなかった。
病室には心電図の音だけが響いていた。
かなりの量の出血があったらしく危険な状態だと聞かされた。
まるで世界の終わりを告げられたような気持ちだった。
「今夜が山だ」という医者の言葉が呪いの呪文のように聞こえた。
部屋の中は時間が止まっているようだった。

「橋口君…君も今日は休んだ方が…」
「イヤです…ずっとここに居らしてください」
「でも、君も…その、身体的にも…ダメージがあるし…」
「オレは大丈夫です…オレのせいで、龍次さんが…こんな目に…」
「……アホやな……」
「龍次さん!?」
「川口!大丈夫か!?」

龍次さんが薄く目を開けた。
こちらを見る。
急に心電図の音が乱れ出した。

「泰三…おお、和泉も…居ってくれたんか…」
「龍次さん!」
「川口!ムリするな!今先生呼んで来るからな!」

和泉さんは集中治療室から駆け出していった。
龍次さんは酸素マスクをはがすと、オレの頬を撫でた。

「…イヤ、オレはもう、あかん…みたいや
いいか…、オレとの事は早う思い…出に、して
ち…違うやつ、と…幸せに、なるんやで…
オレのせいで……ゴメンな…」
「イヤや!龍次さん、ずっと一緒やって、何度も何度も言ったやないか!!」
「……おう、死んでも…お前、の…ここに、ずっと…居らして…な」

そう言って震える手をオレの左胸に当てた。

「龍次さん…イヤや…まだ一杯、したい事あったのに…」
「…オレ、も…やで…でも……もう…
ええか、これだけ…は…忘れるな…
お前のせいやない…ええな…」
「……うん……」
「よし…ご褒美…家に…あるから
オレの……引き、出し……あかん…
最後に…キス、しよ……」

オレの首に手を回し、引き寄せようとする。
その力は消えそうな蝋燭の様に弱々しかった。

「龍次さん!」
「ホラ…早よう…」

最後のキスだった。

オレはそのまま警察病院に入院する事になった。
事情聴取にはある程度事情を知っている和泉さんが来てくれたおかげで
デリカシーのない質問を何度もされる事はなかった。
オレは辛さから逃れるように無感情になっていた。
何も考えたくなかった。

1週間後、腕の傷が大分落ち着いてきたので外出の許可が出た。
桜が咲き始めていた。今年は京都に花見に行こうって約束してたのに…。
胸の代わりに左腕の傷が少しズキズキした。
オレは家に帰り、龍次さんが言っていた「ご褒美」を探した。
机の引き出しを開けると、包装紙に包まれた箱が現れた。

『泰三へ。二十歳の誕生日おめでとう。大好きやで。龍次』

汚い文字で綴られたカードが添えられていた。
包装紙を破らないようにそっと開ける。
中から出てきたのは財布だった。
オレがいつか欲しいと言っていたものだった。

「こんなもん…こんなもん要らん!龍次さんを返せよ!!」

龍次さんの使ってた服、箸、茶碗、ペン、メモ、ケータイ、歯ブラシ、カバン、靴…
何もかもここにはあるのに、龍次さんはもう居ない。
二度と帰ってこない。どんなに手を伸ばしても、この手はもう届かない…。
主を失ったこの家の空気は重く、冷たく、オレの背中に圧し掛かってくる。
封じ込めていた感情が溢れ出し、オレは大声で泣いた。


黒澤は覚せい剤取締法違反と殺人容疑で起訴された。
動機は龍次さんへの復讐だった。
出所してから色々と龍次さんについて調べまわっていたらしい。
オレを襲ったのは龍次さんの大事なものを壊したかったからだと聞いた。
判決は実刑で懲役12年。はっきり言って不満だった。
しかし判決は変えられなかった。

オレは仕事をやめ、和泉さんに家の権利を譲り、逃げるように東京に来た。
自分の不甲斐なさで大事な人を亡くした後悔を
もう二度としたくないという思いで必死に体を鍛えた。
左腕の傷は治っても綺麗に消えなかった。その傷を見るたびに胸が痛んだ。
知り合いの彫り師に頼んで誤魔化すようにタトゥーを入れた。
龍次さんにどこか似ている人とはセックスしたいとさえ思わなかった。
あんなに気持ちよかったはずのウケがまったく出来なくなった。

あの事件から逃げようと、全部捨ててきたけど
この財布と龍次さんの写真だけは捨てられなかった。

***

「でも、あの日お前と出合った時にな…
オレの中でなんかが壊れたんよな。
確かに最初は、見た目やったけど…
お前の優しさと、可愛さにな、惚れてもーた」
「………」
「ま、12年前の話やからな。気にすんなよ」
「泰三さん…オレ…なんて、言ったらいいか……」
「だーから、昔話なんやて!w
まあこの財布と、写真は、そのー…形見と遺影みたいなもんやわ。
龍次さんもきっと、今のオレら見て安心してるんちゃうかな」
「……そう、かな…」
「そうやって。オレが龍次さんの立場でも同じ事考えるで。
これから死ぬ自分の事はひとしきり悲しんでくれたらそれでええ。
立ち直って幸せになって、時々でも思い出してくれたら…ってな」
「そんな!イヤだよ泰三さん死んじゃうのなんて!」
「ハハハ、例え話やって。オレは…そりゃいつかは死ぬかも知らんけど
そんな簡単に死んだりせーへんよ。伊達に鍛えてないからな」
「うん……」
「それに…ウケはまだちょっと怖いけど、お前やったら……ええで」
「エロオヤジw」
「お、懐かしいなwお前もこうなるんやでw」
「ならへん。絶対ならへんw」
「うわwユキヒロの関西弁変なの!超違和感だよwww」
「泰三さんの標準語、キモいwwwww」
「なんやて!この!」
「ひゃはははは!!やめて!わき腹だけは!!」

ドサッ。

「……好きやで」
「うん、オレも……」
「ねえ、もうすぐお盆休みだからさ…旅行しようよ」
「ええな。どこいこか」
「大阪」
「絶対決めてたやろ」
「えへ、バレた?」
「そやな、今年も龍次さんに挨拶に行くか。
…ようやく安心させてやれるかな」
「楽しみだね」
「ああ」続きを読む

018. 誰だっていつかは死んでしまうでしょ

一緒に住み始めてもうじき3年…。
俺達は相変わらず仲良く一緒に住んでいた。
お互いの話もいろいろした。
龍次さんは22歳の時に事故で家族を亡くしたそうだ。
オレは母子家庭で、母親は昔から男作って留守がちだった。
なんか状況は違うけど、ずっと一人だったのは似てるねと笑い合った。

そんなある日の事だった。
夕飯を食べ終わってくつろいでいるとケータイが鳴った。

「もしもし?……なんやって?すぐ行く!」
「仕事?」
「ああ、先月出所したばかりの犯人がまた悪さしてこの辺逃げとるらしい」
「気をつけてな…」

大阪でもあまり治安がよくない町だったので
こういうときは本当に不安だった。
龍次さんを送り出し、部屋の掃除をしていた時
玄関の外で何か音がしたような気がした。

(ん…?龍次さん帰ってきたかな)

そう思って玄関を覗いてみたが、誰もいなかった。
その時。

「お前がぁ……龍次の男かあぁ?」

背筋が凍るような声だった。
とっさに振り返ったが既にそいつはオレの目の前に居た。

ダン!

物凄い力で壁に叩きつけられる。
男の顔は逆光で分からないが、体格も、力も完全に相手が上だった。

「くっ…、だ、誰や!」
「うえへへ……ひ、み、つw」
「ふざ…けんな!この…!」
「うぐっ!」

男の鳩尾に膝蹴りを食らわせる。
家宅侵入の上に暴行未遂。このくらいなら正当防衛だろう。
男が怯んだ隙に抑え付けられていた両手を解こうとする。
左手が辛うじて解けた。
そのまま男の顔面を狙ってパンチを撃とうとした瞬間…

ザクッ。

「アハハアアァァw悪戯する手は、おしおきしなきゃなw」
「がぁぁぁぅぐっ」

今度は右手で気管を塞いできた。声が出せない。

「大声出すなぁよぉぉぉぉぉおwwwひひひw」
「…!!…!!!!」

左の二の腕が焼けるように痛む。
何かが、刺さっていた。

「龍次にはぁあ、世話になった、からなあぁああw
御礼をおぉをお、しなきゃなぁぁあwwうひひ」

髪を掴まれ、リビングに引きずられた。
そのまま床に抑え込まれる。
首を締めながら、左手に刺さっていた物をずるりと引き抜く。
痛みに叫ぼうにも、気管がふさがれて声が出ない。

「安心しなぁ。殺しはぁああぁ、しねぇよw
でも…楽しませてもらうがなぁぁぁああぁ」

そう言いながら目の前にかざしてきたのは…ナイフだった。
血がべっとりとついている。
服を切り裂かれ、窒息しない程度に喉を抑え付けながら
そいつはオレを犯した。
ニヤニヤと厭らしい笑みをこぼしながら…。
血に染まったナイフを見せつけながら…。
その目は、常人のそれではなかった。

オレは切り裂かれるような体の痛みと
心臓をひねり潰されるような心の痛みに耐えながら
ただ、涙を流し、その男を睨み付ける事しか出来なかった。

「黒澤あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

その怒鳴り声は龍次さんのものだった。
リビングの入口で息を切らしている。

「おwww主人公登場うううひひいひいいいw」
「お前……!よくも、泰三を!!!」
「動くなよ、こいつ、死ぬぜェェェええええw」
「くっ…!!」

「おまえもぉお、運がねぇなああぁ
こいつがぁ、オレを逮捕しなけりゃ…
お前があ、こいつと付き合ってなけりゃぁあ…
こんな目にいぃ、遭わなくてえ、済んだのになああぁw」

「お前…また薬に手出したんか!」

「ああはははあぁぁはははw
お前の事、恨んでるぜえぇw
こんなにキモチイイ物ぉををおw
取り締、まぁぁりいいいいやがってえェええええええ!!!!!!!」

それまでニヤニヤとしていた男の顔が
急に鬼のような形相に豹変したかと思うと
いきなりナイフを龍次さんに向かって投げつけた。

「うぐっ!!」

腹にナイフが深々と突き刺さり、
そこから真っ赤な血がボタボタと流れ出した。

「龍次さん!龍次さん!!クソッ!この野郎ぉぉぉぉぉ!!!」
「ひひひひひひいいいいムダムダムダムダムダぁぁぁぁwwwwww」

男は嬉しそうにまた腰を振り始めた。
痛みが体を貫くが、龍次さんを助けたい一心で力いっぱい抵抗した。
しかし力で完全に負けているオレの抵抗は虚しくあしらわれるだけだった。
どのくらいの時間が過ぎたのだろう…

「う、ぐ…うおおおおおお!!!」

龍次さんが叫んだ。見ると腹のナイフがずるずると引き抜かれていた。
シャツの切れ目からどくどくと真っ赤な血が流れ出している。
既にかなりの出血をしているようだった。
意識が朦朧としているのか、
焦点の定まらない目でフラフラとこちらに歩み寄ってくる。

「龍次さん!オレの事はいいから、救急車呼んで!!!」
「泰三…オレのせいで、ゴメンな…」

龍次さんはナイフを振り上げた。
しかし…そのまま意識を失って倒れてしまった。

「龍次さん!龍次さん!!うわああああああ!!」
「はははははははははは!悲しいか?悲しいか?
誰だって!いつか!死ぬんだよ!それが!今だっただけだ!
はははははははあはっははははははは!!!」

男は狂ったように笑いながら腰を振り続けた。
オレは龍次さんの名を呼びながら必死に手を伸ばした。
でも、どんなに手を伸ばしても
たった数十センチの距離は縮める事が出来なかった…。続きを読む

017. 2人だけの特等席

「いっ…!」
「ムリするなよ…」
「イヤや…」

オレは龍次さんの上に跨って
初めて一つになろうと悪戦苦闘していた。

「う……ぐぁっ!」
「お、おい…うわ、キツいな…大丈夫か…?」
「………す、すげー痛い…」
「抜くか…?」
「い、イヤや…この、ままずっと…」
「前に倒れてこれるか…?」

両膝を突き、ゆっくり上半身を前に倒していく。
龍次さんが優しく背中に手を回して抱きとめてくれた。

「ゆっくり深呼吸しぃ」

言われた通りに深呼吸する。
下腹部を覆っていた重い痛みが少しだけ和らいだ。
背中を撫でながら、キスしてくれた。
右手が股間を愛撫してくる。
痛みですっかり萎えていたのに、簡単に立ってしまった。

「ははは、さすが17歳やな」
「う、く…あっ…」
「イけそうか?いつでもイッてええで」
「あか…あかん、出そう……」
「よし、思いっきり出せ!」
「うああ、で、出る!ああああ!」

初めての合体はなんとも初々しいもんだった。

「ぎょうさん出たなw」
「はあ、はあ……」
「そろそろ、抜くか…?」
「イヤや、ずっと、こうしときたい…」
「そっか。ほな、萎えて自然に抜けるまでな」
「うん…龍次さん、好きやで」
「オレも好きやで」

告白してから1ヶ月目、6月のある週末の事だった。

***

それから10ヶ月…高校を卒業して、
オレは家を出て龍次さんの家に住まわせてもらい
新世界にあるフレンチレストランで働き始めた。
元々料理は好きだったが、
卒業したら一緒に住もうか、という龍次さんの誘いに
龍次さんのためにもっと旨い物を作りたい、と思い、
進路も決まってなかった事もあり、龍次さんの家の近くにあった
このレストランを就職先に選んだ。
新世界とはいえ一応本格フレンチのレストランで
レベルも高く、叱られる事も少なくなかったが
龍次さんのために、という一心でがんばった。

「ハイ、今日はミートローフ」
「おお!すごいな!めっちゃ旨そうやん(*゚∀゚)=3」
「ヘヘヘ、ハンバーグみたいなもんやけどな」
「イヤイヤ、お前の愛が込もっとるがなw」
「うわー、オッサンくさwww」
「お前もそのうちこうなるでw」
「ならへん。絶対ならへんwさ、食べよ!」
「おう、いただきます!」
「いただきます」
「お、旨い!」
「そりゃあ、オレの愛が込もっとるからな」
「お前もゆうてるやんw」
「オッサンと一緒に住んでるからうつったんやわ。責任とってなw」
「ええで。今日も一杯責任取ったるw」
「エロオヤジwww」

俺達はもくもくとメシを食った。
時々目が合うとニヤッと笑いあう。
あとは他愛もない会話を少しだけ。
オレはこの空気が好きだった。
少ない会話で通じ合えるこの時間が。
どんな高級レストランよりこの食卓での食事が幸せだった。
ここは、2人だけの特等席だと思った。

「ごちそうさま!あー旨かった!」
「ごちそうさまー。あ、龍次さん」

リビングのソファに行こうとしている隆二さんを呼び止める。

「ん?」
「口の上、ケチャップついとるで。鼻血みたいやんw」
「え?あ…w」
「オッサン臭い事ばっか言うくせにこういうとこは子供みたいやなw」
「うっさい!wあ、そうや、ちょいこっち来てみ」
「何?」
「ええから」

ソファに座った龍次さんはニヤニヤしながら手招きし、
左手でポケットをごそごそと探る。
かすかにチャリ、っと金属の触れる音がした。

「手、出してみ。左手」
「は?」

右手でオレの左手を掴む。
ポケットから出した左手がオレの左手の指に添えられた。

「ぴったりやな」
「これ……って…」
「今日で1年やろ。記念にな。ペアやで、ペアw」

そう言って自分の指にももうひとつの指輪をはめて見せる。

「龍次さん……」
「これからも、よろしくな」
「……うん!」

オレは龍次さんに抱きついた。
知らない間に涙がこぼれていた。続きを読む

016. ツンデレーション(後編)

それからオレは週に3回は学校に出るようにした。
でも、学校に出た日もあの人に会える事を期待して
あのゲーセンでストIIを毎日やった。

「オイ、お前宮高の生徒やろ」

視線だけ上げる。

「なんや、今工か」
「なあ、ちょっと金貸してくれんか」
「財布落としてもーて、なあw」
「困った時はお互い様って言うやろ」
「…内ポケットからはみ出てるのは何や」
「こ、これは……なあ」
「まあ、その中身も、落としたっていう財布の中身も
どうせ空っぽなんやろ。ついでに頭の中身もか?」
「あぁん!?」
「なんやとコラ!」
「……ちょっとこっち来いや」

路地裏に連れて行かれてボコボコにされた。
当時は大して筋肉質でもなく喧嘩もそんなに強くなかった。
ただ、目つきの鋭さと既に185センチあった身長で
あまり絡まれる事がなかっただけだった。

(クソ、痛てぇな……!)

殴られながら、蹴られながら
それでも財布の入ったカバンは絶対に渡すまいと
胸に抱え込んで亀のように丸まっていた。
その時聞き覚えのある声が聞こえた。

「オイ、お前ら!何さらしとるんや!!」
「やべ!逃げるぞ!」

今工の生徒達は路地の反対側に逃げ去ってしまった。

「オイ!大丈夫か」
「……なんや、オッサンか」
「今の、今工の生徒やろ。お前、なんでやり返さへんのや」
「相手に怪我させたら暴行だか、障害で犯罪になるやろ」
「お前…」
「ハァ、オッサンの言う通りにしたらこのザマや…」
「何があった?」
「別に…金たかられたから、断っただけ」
「そうか…何も取られんかったか?大丈夫か?」
「大丈夫なわけないやろ。顔も服もドロドロやし…あちこち怪我したわ」
「とりあえず送ったるから、一緒に来い」
「…イヤや」
「何?」
「イヤや、学校フケて遊んどったのバレるやん」
「…そっか、じゃあ…とりあえずうちすぐそこやから、そこで休むか」

そいつの家は意外にも一戸建てだった。

「一戸建てか…」
「意外か?」
「生意気…」
「一応公務員やからなwホラ、上がれ」

しかし中は雑然と言うか…どっちかというと汚かった。

「…これで嫁が居る言うたらオッサン、離婚した方がええで」
「はははw心配するな、花の独身貴族やw」
「これが貴族の家か…?」
「まあまあ、硬い事言うな。男同士やろ。
よし、とりあえず泥落とさんとな。服、脱げ」
「え?」
「洗濯するから服、脱げ」
「え…イヤや」
「…しょうがないな。ホレ、タオル。そこが脱衣所。
一人やったら着替えられるやろ?シャワーして傷も洗った方がええで。
あとで着替え置いとくからな」

オレは一人脱衣所で服を脱ぎ、軽くシャワーを浴びた。
ぬるま湯にしても出来たばかりの傷はヒリヒリと染みた。
風呂から出たらスエットが置いてあった。
一応匂ってみたけど変な臭いはしなかった。

「おし、きれいになって出てきたな!」

そいつは満足げにオレを見て言った。

「消毒するで。こっち来い」
「ええよ、そんなん」
「ええから!ホラ、こっち。ここ座れ」
「……」

オレをソファに座らせるとオレの足元に胡坐をかき、
足、手、顔の傷をてきぱきと消毒してくれた。

「お前…オレの言った事、守ってくれたんやな」
「……別に。おっさんに手柄挙げるチャンスやりとうなかっただけや」
「まったく、素直じゃないのw」
「……でも…」
「うん?」
「助けてくれて、ありがとう…」
「ああ、いつでも助けてやるからな」

そう言うと、嬉しそうにこっちを見て微笑んだ。
胸が痛いほどドキドキして、顔が赤くなる。思わず目を逸らした。
オレ、この人にホレたんかな…?
016

「なあ…」
「何?」
「お前、立ってるんちゃう?」
「……!!」

気付かなかったが、無意識のうちに下半身に血が集まっていた。
しかもスエットだから勃起してるのが丸分かりだった。
一瞬で頭がグチャグチャになった。

「こ、これは…その…!」
「ええんやで、高校の頃は何もなくても立ったりするもんやw」
「ちが…そういうんじゃなくて……!」
「ん?」

今思えば完全に暴走してた。

「オレ、オッサ…龍次さんの事が……好きや!」
「……………」

龍次さんはきょとんとした目でこちらを見上げていた。
沈黙で我に返った。。汗が頬を伝って流れ落ちる。
恥ずかしい…けど、視線が外せない。
ご、誤魔化さないと…。

「な、なんてな!はははwビックリしたやろ」

どう考えても焦って取り繕おうとしてるようにしか見えない。
余計にテンパって何か言おうとするけど言葉が出てこない。
龍次さんはそんなオレの隣に黙ってゆっくり腰掛けると
肩を抱き寄せて頭を撫でてくれた。

「ありがとな…勇気出して言ってくれて」
「……………うん」
「これからずっとオレが守ったるからな」
「………うん……」

緊張の糸が切れたのか
体の力が抜けてしまった。
龍次さんの心臓の音がただ、耳に心地よかった。続きを読む
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