取調べは遅々として進まないのに、時計の針はどんどん進んでいく。

「…ちょっと連れに電話したいんですけど、いいですか」
「スイマセンね、一応事情聴取中はご遠慮願えますか」
「浪速警察署への照会はまだ終わらないんでしょうか…
心配させてるんで、少しだけでも連絡してやりたいんですが…」
「なんせ12年前の事件ですんでねえ、
データベースにない可能性もありますので」
「昨日スタンガンの件で電話があった時にも
12年前の事件の犯人があやしいって言って
浪速警察署の事も言っておいたと思いますけど…」
「そうだったんですか…部署が違うのでなんとも…」

だんだんイライラしてきた。
国家権力かなんか知らないけど本気で捜査する気があるのか?
だが今は待つしか出来ない。
時間はもう3時半を回っていた。

(ユキヒロ…心配してるやろな……
明日仕事やって言ってたし、寝ててくれたら良いけど…)

その時部屋のドアが開き、別の警官が入ってきた。
なにやら印刷された紙を数枚持っている。
担当の警官にそれを渡すと軽く会釈して部屋を出て行った。

「なるほど…確かに今日の男が黒澤で間違いないでしょうね。
川口巡査殺害の動機もあなたが言って下さった通りですね…」
「だから言ったやないですか」
「申し訳ありませんね…一応これも決まりですんで」
「……」

顔も掌も痛むし、ユキヒロの事が気がかりで
なかなか進まない事情聴取にうんざりしてきた。
本当なら誰にも見せたくなかった「あの写真」を出すことにした。
オレは龍次さんから貰った財布を取り出し、
カード入れの奥に作ったポケットに忍ばせておいた写真を出した。

「恥ずかしいんであまり人に見せたくなかったんですが…
12年前に川口巡査と撮った写真です」

その写真には高校時代のオレと龍次さんが写っていた。

「これはまた…随分とそっくりですね…
黒澤が狙うのも分かるような気がします」
「黒澤が言うには、オレがあいつと付き合っていたせいらしいですけど…。
オレのせいで12年前川口巡査を殺害して
満足していたはずの憎しみがまた蘇ったと…」
「なるほど…参考になります。この写真は…お預かりしても…?」
「大切な写真なので必ず返してもらえるのであれば…」
「お約束します」
「あの…何度もすいませんが…まだ帰れないんでしょうか」
「ええ…ようやく調書も届いた事ですし、
今日のところはお引取り頂いて結構です。
長い時間ご協力ありがとうございました」
「えっと…確認ですけど…オレが黒澤に怪我を負わせた件については…」
「ご心配なく。これだけ証拠もありますし、正当防衛として認められますよ」

オレはようやく体から緊張が抜けていくのが分かった。
深く息を吐き出し、お辞儀をした。

「ありがとうございました。黒澤の件、よろしくお願いします」
「了解しました。あなたたちが安心して暮らせるように勤めますので」

もう一度お辞儀をして、取調室のドアを開けた。

「…………へ?」
「……お疲れ様」
「ユキヒロ…?何で、ここに……?」
「やっぱり心配で…」
「そうか…ありがとな……」
「……で、どうだったの?」
「大丈夫や。正当防衛やし、黒澤の動機も分かってもらえた」
「良かった……」

目に涙を溜めて抱きついてきた。

(おいおい…こんな人前で…)

そう思ったが、言うのはやめた。
6時間以上、一人で不安な思いで待ってたんだ。
そう思うとユキヒロの事がいっそういとおしく思えた。
背中に手を回し、力を込めて抱きしめてやる。

33


「ヒューヒュー、熱いねえお二人さん!」

突然廊下の向こうから声がした。
驚いて顔を上げると見慣れた顔がこちらに歩いてくる。

「和泉さん!?」
「なんで!?」
「イヤー、野方署から川口の事件について照会があったって
職場から電話かかってきたんやけど、
なんかいやな予感がしたから車でちょっくら来てみたら
案の定…って感じやね。まあその様子なら…大事もなさそうやね」
「ええ…おかげさまで」
「ああ、ここに来る前に病院行って来たけど…」
「黒澤は…どうですか…?」
「正直結構危ないらしい…けど、お前にあいつの命なんか背負わさんからな」
「……すいません、色々、ホンマに……」
「ありがとうございます」
「ええって!ええって!w それより眠いやろ。早よ帰ってゆっくり寝え」
「あ…和泉さんは…?」
「オレは有給取ったから、ここで仮眠してからまた大阪に帰るわ。
あー、あとここの連中にあの事件の事しっかり説明しといた方が良いかな…
まあなんにしても一回寝てからやね」
「そうですか、良かったら、うち来ませんか?散らかってますけど…」
「ハハハw ゲイ2人と一緒に寝るのは怖いなw パンツ脱がさんといてやw」
「タイプやないです!www」
「オレだってしたくないですよ!!w」
「ほな、お言葉に甘えさせてもらおかな」

警察署のロビーから出ると、東の空が紫色に染まっていた。