「名前と、年齢と、職業は?」
「橋口泰三、32歳です。自動車整備やってます」
「状況説明してもらえるかな」
「ちょっと長くなりますが、
12年前に浪速警察署の川口龍次巡査殺害事件がありました。
オレはその川口巡査と当時付き合ってました」
「え、ちょっと待って、という事は…おたく、ホモ?」
「そうです。今日一緒に居たのは恋人です」
「……ああ…あ、そう……えっと、続けて」
「川口巡査が覚せい剤取締法違反で逮捕したのが
黒澤優…あの男です。刑期を終えて出所したものの、
川口巡査に恨みを持ち、殺害しました。
その事件で黒澤は再び逮捕され、懲役12年の判決が出ました…。
そして12年後出所してきた黒澤は、
刑務所の中で川口巡査に甥がいる事を知り、
…どうやって調べたかは知りませんが、東京にやって来ました。
その甥が今のオレの恋人です」
「ちょっと整理します…
黒澤優がかつてのあなたの恋人の川口巡査に恨みを持ち、殺害…
そして実刑判決を受け、服役…
その服役中に川口巡査に甥がいる事を知り、東京に来たと…」
「そうです」
「なんで川口巡査の甥を襲う必要があったんですかね」
「それは…」

***

泰三さんは事情聴取を受けるとかで警察に連れて行かれてしまった。
そのあとすぐに救急車が来て、黒澤を乗せて走っていった。
泰三さんが足払いで倒した時、
払いのけたナイフが背中に刺さってしまったらしい。
これって…正当防衛だよな、泰三さん捕まらないよな…?
そう考えただけで恐ろしくて体が震えだした。

「ヒヒヒヒ…きも、…きもち…いい……ww」

かすれた声で笑いながら救急車に乗せられる黒澤が
最後に発した言葉が頭をよぎる…。

(クソ!あんな…あんなやつのせいで泰三さんが逮捕さr…!?)

その時ポケットに入れたケータイが震えた気がした。
慌てて取り出した…が、液晶には何も表示されてなかった。
着信ランプも光ってない。

(気のせいか…)

「心配すんな。すぐ帰ってくるからな。
久しぶりにお前のティラミス食いたいから作って待っててくれるか?」

パトカーに乗る前に泰三さんが言ってくれた言葉を思い出す。
ベッドからのろのろと起き上がり、冷蔵庫を開ける。
泰三さんと付き合い始めて、色々食材は買うようにしていたが…

「マスカルポーネ…切らしてるよ…バカ…」

スーパーはもう閉まってる時間だし、
コンビニのクリームチーズで代用するか…。
オレは財布を持って玄関のドアを開けた。

ゴッ。

「イテテテテテ……」
「あ、すいませ…慶吾!?何で?」
「ごめん、下がちょうど開いてたから直で来たんだけど…」

慶吾の顔を見た瞬間、現実に引き戻された。
黒澤の事、泰三さんの事、全部夢かもしれないと思ってたけど

(やっぱり本当…なんだ…)

足に力が入らず、立てなくなってしまった。
ヘロヘロとその場に座り込む。

「おい、どうしたんだよ!?」
「う…うん、実は……」

***

「つまり…川口巡査と付き合っていたあなたが
川口巡査そっくりの甥っ子さんと付き合っている様子を
12年前の川口巡査と重ね合わせた黒澤が
あなたの恋人を殺害しようと襲ってきたという事ですね」
「はい。それで、夜道で襲われたんです。
とにかくあの時は黒澤の動きをどうにかして封じる事しか
頭にありませんでした。」
「それで、足払いをして倒した結果、背中にナイフが刺さった、と…」
「そうです」
「……分かりました。12年前の事件とも関わりがある様ですので
浪速警察署に問い合わせてみます。少しお待ちいただけますか」
「ハイ」

***

「え…?どういう事?襲われそうになったって…?」
「えっと…何から話せばいいのかな…
まず泰三さんが12年前に付き合ってた人が警官で…
その人が逮捕した犯人が、恨んでその人を殺して…
刑務所の中でその警官には甥がいるって事を知って…
それがオレで…それで、オレを…こ…殺しに…」

そこまで言って怖くなった。
体がガタガタと震えだした。
慶吾の手が肩に置かれた。
慶吾の手も震えていた。

「で、でも…ちゃんと生きてるじゃん…
そういえば、泰三さんは…?」
「泰三さんが…黒澤を…その男を…やっつけてくれた…」
「え、そ…そう、良かったじゃん!」
「でも…黒澤に重傷を負わせて…今、警察に……
すぐ帰ってくるから、ティラミス作って待ってろって……
もう11時半になるのに……」
「…………」

慶吾は黙って立ち上がって、手をこっちに差し伸べてきた。

「…買い物行くんだろ?ホラ」

オレは黙ってその手を握り返した。
グッと腕を引いて立ち上がらせてくれた。

「ありがと…」
「大丈夫だって!どう考えても正当防衛じゃん!
早く買い物済ませて作ろう。
じゃないと泰三さんすねちゃうよw」
「そ…そう、だよ…ね。うん、そうだよね」
「そう!大丈夫だから!」

慶吾の笑顔がいつになく頼もしかった。
そうだ。待ってる事しか出来ないんだったら
泰三さんの喜んでくれるようなおいしいティラミスを作らなきゃ!
俺達はコンビニへと急いだ。