ショップを出て本屋に向かう。
夕焼けの空を横目に見ながらエスカレーターを下り
エナメルバッグに財布の入った紙袋を仕舞った。
店に着いて入口から中をうかがうと
棚の上からよく知ってる顔が飛び出していた。

「お待たせ!」
「おう、結構早かったな」
「うん、たいした用事じゃなかったからね」
「そうか。これからどうする?」
「んー。まだ晩ご飯には早いよね」
「そうやなー。じゃあゲーセンでも行くか」
「ゲーセンかあ。当分行ってないなあ。面白そう。行こ行こ!」

というわけでゲーセンにやってきた。
パチンコ屋みたいに騒然としている。

「へー、最近のゲーセンってすごいね」
「やろ。お、良かったドラムあいてるやん」
「ドラム?え、これどうやるの?」
「フフン。まあ見ててみ」

泰三さんは備え付けのスティックを握り
エレキドラムにテレビ画面がついたような筐体の前に座った。
コインを入れ、なにやら選択している。
画面が切り替わって音楽が流れると同時に
画面の上からいろんなバーが降ってくる。

(なるほど、タイミングを合わせて正しい所を叩くのか…)

それにしても泰三さんの腕前はすごく上手かった。
ドラムの事はよく分からないけど
なんか泰三さんの今まで知らなかった表情が
また見れた気がして、刺激的だった。
4曲で、正味10分くらいの時間だったけど見惚れていた。

「どうや?」
「すごく…かっこいいです……」
「やろー?w ま、ホンマもんのドラムとは全然違うけどな」
「泰三さんってドラマーだったの?」
「昔ちょっとな。最近はもっぱらゲームやけど」
「へえ。オレも手が治ったらやってみたいな」
「そうやな。また一緒に来ような」

そのあとはクイズのゲームを二人でやった。
1つの筐体に二人で並んで座ってやるから肩が密着してドキドキする。
ひとしきり遊んでからレストランフロアに行った。

「なに食べよっか」
「そうやなー。米食いたいな」
「じゃあ…ここは?」
「トンカツか、ええな」

二人でトンカツ定食を注文して食べた。
時々目が合うと泰三さんはニヤッと笑う。
オレもつられてニヤッと笑う。
こうしてたまに外で食べるのもいいな。
会計をする時に泰三さんの財布を見た。
良かった、新しいのに買い換えてはないな。
まあ、あんなボロボロになるまで使うくらいだから
そうそう簡単に買い換えないか。
ビルを出てちょっとした広場のベンチに座った。
生ぬるい夜風が頬を撫でる。

「ああ、旨かったな」
「泰三さんの料理の方がオレは好きだけどね」
「まあ、当然やなw」
「自分で言ってるしw あ、そうだ」

オレはバッグから財布の入った紙袋を取り出し
泰三さんに差し出した。

「何や?」
「えーと…プレゼント?」
「なんで疑問形やねん」

泰三さんは紙袋を受け取ると中からラッピングされた財布を取り出した。
包装紙をそっと開ける。

「これ…」
「…気に入らなかった?」
「イヤ、めっちゃ嬉しい…。でも、何で急に?」
「んー…特に理由はないけど、強いて言えばこれのお礼、かな」

包帯を巻いた右手をひらひらとかざす。

「それにもう今の財布、かなりくたびれてるし…。
思い出の財布なんだから大事にしなきゃ」
「…そっか。ありがとな」
「大事に使ってね。いい財布だから、長持ちするからね」
「おう、この財布がボロボロになったら、また新しいの買ってくれな」

そう言って周りから見えない角度でオレの手を握ってくれた。
胸がドキドキした。
泰三さんも顔が赤くなってる。
なんか甘い気持ちになって寄り添いたい気持ちになったけど
一応街中だし我慢した。

「よし、腹も膨れたし、そろそろ帰るか」
「うん!」

今日で夏期休暇は終わりだけどすごく楽しかった。
俺達は電車に乗って高円寺に向かった。