新大阪駅は人でごった返していた。
地下鉄に乗り換えて難波まで来た。

「ホンマはこっから乗り換えて恵比須町いうとこに行くんやけど
せっかくやし、街ん中歩きながらいくか」
「うん!」

難波から日本橋方面に途中まで地下道で行き、
エスカレーターで地上に出る。
東京より少し雑というか、ラフな感じの街並みと
すれ違いざまに聞こえる関西弁が新鮮だった。

日本橋から南に下っていく。
西の秋葉原といわれる電気店街をぬけると
前方に通天閣が見えてきた。

「もうすぐやで」
「もうダメ…泰三さん、ジュース買ってー(;´д`)」
「もうすぐって言っとるやないか。我慢せえ」
「ケチー(・ε・´)」
「ホラ、ここが浪速警察署。龍次さんのいた職場」
「ここかあ…」

信号が青になった。
交差点を渡って100mもしないところに煉瓦造りの建物があった。
泰三さんはその前で立ち止まった。

「ここが、オレの元職場な。
時間もちょうどええし、ここでなんか食うか?」
「え…?」
「ホレ、行くで。こんちわー」
「いらっしゃいま…え、橋口……くん?」
「深雪さんやないですか。ご無沙汰してます」
「えー!?ホンマに橋口君なん!?別人みたいやん!いやー
店長!店長!!ちょっとー!」
「なんや、騒がしいなあ。なんかあったんか?」
「橋口君!橋口君が来てくれたんよ!」
「ホンマか!?ゼビウスのスペシャルフラッグ並みにレアやん!」

厨房からドタドタと足音が近づいてきた。

「イヤあの、お気遣いなく…(^_^;)」
「おお!よう来たなあ、って、うーわ!すっかり見違えて!
ますますガラが悪くなったんとちゃうか?」
「店長も相変わらず口が悪いっスねえw」
「えっと…こちらは……?えらい川口君にそっくりやけど…」
「ああ…コイツ、新しい恋人です。そっくりでしょう」
「ど、どうも…名取です。泰三さんが以前お世話になっていたそうで…」
「イヤホンマそっくりやわ。ミラクルひかると宇多田ヒカルくらい似とるわ」
「深雪さん…微妙な例えはええからとりあえず座らせてくださいよw
コイツ干からびかけてるんですわw」
「ああ、そうやね。ゴメンゴメン。暑い中お疲れ様」

お店は1階は厨房とパンやケーキの販売で、
2階が食事できるようなつくりだった。
一番奥の窓際の席に通してもらい、冷たい水を貰った。

「えっと、じゃあBコース…」
「あっ!料理はこっちにまかしとき!」
「え、でも…」
「ええから、ええから。
せっかく久しぶりに来てくれたんやから言うて
店長も張り切ってるんよ」

深雪さんは嬉しそうに目を細めながら
他の客に聞こえないように小声で教えてくれた。

「じゃあ…お任せします」
「期待しといてな」

そう言うと深雪さんはウインクをして下に下りていった。
そして運ばれてきた料理は今まで食べた事がないような豪華なものだった。
テレビでしか見た事のないような高そうな料理が次々に運ばれてくる。
味も本当においしかった。

「でも…これすごく高いんじゃないのかなあ…?」
「ああ、さすがにオレもちょっと心配やわ…
まあ、お金は多めに持ってきたし、たぶん大丈夫やろ」
「んー…大丈夫、なのかなあ…」

***

「ちょっと、どういうことですか!」
「イヤイヤ橋口君、まあ落ち着いて」
「これが落ち着けますか!」
「泰三さんの言う通りです。僕も納得いきませんよ
何であんなにたくさん料理が出てきて2人で2,000円なんですか」
「イヤ、そのー…」
「ランチメニューはただでさえ粗利が低いのに…
絶対原価割れしてますよね、この値段」
「え、イ、イヤ…あの…」

鋭い指摘を受け、深雪さんは目を泳がせた。

「深雪さん、ホンマにオレら嬉しいですけど、
仕事はきっちりせなダメやと思うんです。
オレの経験からしてメニューに載せるとしたら
あれはランチ基準でも1人4〜5,000円の料理でしたよ。
やから、これ受け取ってください」
「あっ…あかんよ、橋口君」

そういいながら強引に一万円札を渡そうとする。
深雪さんは困ったように泰三さんの手を押し戻そうとする。

「橋口君…」
「あっ、店長」
「…店長がこの値段決めたんですか?」
「そうやで。橋口君、川口君亡くなってからホンマに落ち込んで
ホンマに…後を追うんちゃうかって心配になるくらいやった。
少しは元気になったけどそのあとすぐうちを辞めて、
そのまま東京に行ってもうたやろ…ずっと心配してたんやで。
今日、新しい恋人や言うて名取君連れてきてくれて
見違えるほど元気になった姿見せてくれて…
わしも深雪くんも、ホンマに嬉しかったんやで。
やから、今日の料理は元気な姿見せてくれたお礼なんや」
「店長…」
「わしらの気持ち、受け取ってくれるな?」

泰三さんは目を閉じ、溜息をついた。そして口を開いた。

「ダメです。サービスが露骨過ぎます。
他のお客さんからのクレームになりかねません。
やから、ちゃんとビジネスはビジネスとして割り切ってやってください」
「うぐ…そ、それやったら仕方ない…」
「分かってもらえたらいいんです。で、会計は1万円ですか?1万2千円ですか?」
「……名取君…こ、これを…(;´ω`)つ【写真】」

そう言って店長はポケットから何かの写真を取り出し、裏返して差し出してきた。

「…?なんすかこれ」
「橋口君がうちで働き始めた時の写真や…」
「……っ!!!!!!」

泰三さんが血相を変えて店長の手からその写真を奪おうとする。
店長はその手をヒラリとかわす。

「店長!何でそんな写真まだ持ってるんすか!!」
「ホホホ(・3・)あの頃の橋口君は今と比べ物にならんほどの…」
「うわー!わー!!!ユキヒロ!聞くなよ!」
「名取君…じゃあこっちを…は、橋口君の歓迎会の時の…(((;゚Д゚)))つ【写真】」
「深雪さんまで!!やめてください!!!」
「ホホホ(・3・)橋口君、今日の会計は一人1,000円やけど、ええかな?」
「分かりました!分かりましたから!!
2人ともお願いやから写真なおして*くださいよー!。゜゜(つ□`。)°゜。」
「泰三さん……(^_^;)」

あの泰三さんが泣きそうな顔で2人に懇願している…さすがだ。
…という訳で無事?店長の思惑通り食事代は一人1,000円になった。

「ご馳走様でした」
「ご…ご馳走様でした…(;´ω`)」
「名取君、橋口君をよろしくな。
橋口君、また遊びに来るんやで」
「ハイ、本当にありがとうございました」
「もう…写真処分しといてくださいよ…」

俺達は店長と深雪さんに挨拶をして店を後にした。

「はあ…疲れた…」
「もー。そんな恥ずかしがるような写真なの?」
「どんなんか話すのもおぞましいわ…」
「まあ、オレは今の泰三さんが好きだから
昔どんなんでも、全然気にしないよ」
「そ、そうか、ありがとうな」
「それにしてもおいしかったね」
「そうやろ?つーかメインの料理、オレが考えたレシピやった…」
「やっぱり?」
「え、やっぱりって?」
「イヤ、食材は食べたことがない様な高級なものだったけど
なんか味付けが…泰三さんの料理っぽかった」
「そうか…まあ、今のオレの料理の腕前は
あそこで磨かせてもらったんやもんな」
「それに、深雪さんも店長もいい人だった」
「……写真で元店員を脅すような人やけどな(;´ω`)」
「まだそんなこと言ってるー。ホントは泰三さんも好きなんでしょ?
だからあそこでお昼食べようって言ったんでしょ」
「まあな。深雪さんも店長も
オレがゲイやって知ってもそれまでと変わらず接してくれたしな…」
「あんなあったかい人のところで料理を勉強したから
きっと泰三さんの料理はおいしいんだね。また、来ようね。
…っていうか、次はどこに行くの?」
「もうすぐそこやで」

そう言って目線を前に向ける。
そこには小さな喫茶店があった。
(´・ω・`)★☆(´・ω・`)★☆かいせつ★☆(´・ω・`)★☆(´・ω・`)

大阪の街の描写はわりと簡単なんですが
東京に住んだ事がないので、
「関東人から見た関西の街」という視点が難しかったですね。
泰三視点で書けばよかった。

難波から恵美須町まで、実はかなりあります。
泰三は体力あるので平気なんですが
真夏の炎天下に歩くにはオススメできない距離です。

また会計時のいざこざ→弱みを握る店長と深雪の流れは
結構個人的に気に入ってます。
シリアスから一気にギャグにいく空気の切り替わりが気持ちいいなと。

*1 なおす:関西弁で「仕舞う」という意味