「オイ」
「…なんやねん」
「自分、高校生やろ?」
「だったらなんやねん」
「学校は?」
「…フケた」
「そうか。勉強嫌いか」
「……ほっとけ」
「あのな、ホントならとっ捕まえて学校に引きずっていくとこやで」
「出来るもんならやってみれや」

平日の昼間。学校をサボって
ゲームセンターでストIIに勤しんでいる最中に
横から話しかけられてオレは不機嫌だった。

「まあ、オレも高校の頃は勉強が嫌いやったからな、
学校に行っても友達は居らんかったし
学校に行きたくないお前の気持ちが全く分からんわけでもないからな」
「イジメられっ子ってヤツか?ダサいの」
「イジメとはちょっと違うな。
オレらの年代のイジメはもっとこう、暴力的やったからな」
「ふーん…」
「ま、そんなんやから別に無理矢理学校に行けとは言わん」
「やったら、ほっといてくれや。オッサン」
「オイオイ。オレまだ20代やで。…まあ来年30やけど」
「高校生からしたらオッサンやわ」

ゲームに集中できず、ダルシムに負けてしまった。

「ああ!オッサンが話しかけてくるせいで負けたやんか!」
「悪い悪いwホレ、100円。これでチャラやろ」
「補導もせずにゲーム代まで出すんか」
「アホ、無意味に補導されんように保護者代わりになってやっとるんやんけ」
「つーかオッサンなにもん?うち金持ちちゃうで」
「ははは、オレは『お巡りさん』やでw 今日は非番やから私服やけど」
「ウソつけ。普通おまわりが学校フケた高校生をほっとくか」
「ほな制服姿見せたるから、明日スー玉で万引きしてみるか?」
「アホか、それ捕まるの前提やんけ」
「冗談やってw まあ、お前がこれからも学校サボるなら
そのうち制服姿でウロウロしてるとこ見たりもするんちゃうかな」
「…真面目に仕事せえよ、税金ドロボウ」
「はははw まあ、学校サボるのはええけど…犯罪はするなよ」

そいつはオレの肩に手を置くと
真顔でオレの目を真っ直ぐ見つめて言った。
スポーツ刈りが伸びたような頭、不精髭、ジャージ…
ホンマに警官か?と思うような井手達だったが
オレの事を見つめる真剣な視線は
本気でオレが犯罪に手を染めない事を願っていた。そう感じた。

「お、オッサンが高校生に手を出すのも犯罪やで」
「ははは、なに照れとんねんw
そうや、オレは川口龍次って言うんや。
浪速警察署勤務やから変なヤツに絡まれたりしたら飛び込んで来いよ」
「オッサンの世話になんかなるか。も…、もう帰るわ」
「おう、気をつけて帰れよ」

オレは顔が熱くなるのを感じた。
…なんだこの感覚。異様に胸がドキドキする。
性的な興味は既に男にしかなかったが
一人の男に対してこんなドキドキしたことなんかなかった。
多分赤くなってる顔を見られまいと慌ててゲーセンを出ようとして足を止めた。
そして引き返してその男のところに戻った。

「ん?どうした、忘れ物か?」
「これ」
「100円?」
「借りは作りたないし」
「ははは、そうかw」

笑いながら差し出した掌に載せた100円玉を
無骨な指で摘み上げる。
掌に指が触れる。汗が出てきた。
015
「……橋口」
「ん?」
「橋口泰三…オレの名前」
「泰三か。男らしい名前やな」
「ほな…」
「おう!たまには学校にも行けよー」

(川口…龍次か…)

自転車をこぎながらさっきの事を反芻するように思い出す。
何度も何度も、
あの人の真っ直ぐな目を。
肩に置いた手の温もりを。
優しい笑顔と低く張りのある声を。

オレはその夜なかなか眠れなかった。
でもあの人の言う通り、たまには学校に行ってもいいかな、
なんて思っていた。
(´・ω・`)★☆(´・ω・`)★☆かいせつ★☆(´・ω・`)★☆(´・ω・`)

はい、という訳で強引に締めた14話から時代が戻って泰三の高校時代です。
何かにつけて名前だけ出てきて太「隆二さん」との出会い編です。
ちなみにこの「泰三×龍次編」は大阪・新世界が舞台になってます。
このゲーセンは今はなきキューティというゲーセンがモデルです。

また、龍次の苗字は「てんで性悪キューピッド」の主人公
鯉昇龍次からまんまとって「鯉ノ堀 龍次」にする予定でしたが
ちょっとあまりにあまりなのと、「橋口」と対になる名前にした方が
なんとなく運命っぽい感じ、しねえ?と思ったので
「川」がないと「橋」は架からないと言う事で「川口」にしました。