家に着いた時は頭の先から爪先までずぶ濡れだった。
カバンを放り出し、服も全部脱いでパンツのまま布団の上に倒れこんだ。

(………頭イテェ…)

頭の痛みで昨日久々に酒を飲んだ事を思い出した。
泰三さんとの事も。

(オレだって、似た様なもんじゃねーか…)

振られたその日に、酒のせいとはいえ
知らない男とセックスしようとしてた。
偉そうに人を責める資格なんてないのに
自棄になってハッテン場に行くより
断る事も出来たあの状況で誘いに乗る方が
よっぽどたちが悪いように思えた。

(……いっその事全部リセットできたらいいのにな)

何をどこからどこまでが全部なのか分からないけど
とにかく今の状況から逃げ出したかった。
自己嫌悪と捨てきれない憎悪を抱えたまま
いつしか俺は眠りについていた。



(……寒い……)

気づいた時には部屋は真っ暗だった。
関節が痛み、ものすごい寒気がした。
裸で濡れた体で、布団もかけずに寝たせいで
すっかり風邪を引いたみたいだった。
だるさで動きたくなかったが、冬物のフリースを出して着た。
布団に包まっていても歯がガチガチと鳴った。
水分を取らないと…。
ミネラルウォーターのボトルが何本かあったはずだ。
そう思って冷蔵庫を開ける。
とりあえず買い置きの薬を飲み、2リットル一気に飲み干した。

しばらく布団に包まっていたらチャイムの音が鳴った。
なんかの勧誘か…?無視していたがチャイムはしつこく鳴り続けた。
重い体を引きずって受話器を取る。

「はい……え?」

ディスプレイには泰三さんの顔が映っていた。
高円寺だとは言ったけど家の場所は大まかにしか言わなかったし
部屋番号もまだ教えてなかったのに、どうやって?

「オレや。開けてくれー」

状況がつかめないまま開錠ボタンを押す。
しばらくすると玄関のチャイムが鳴った。
玄関まで迎えに行く。

「よう♪忘れもんやで。お前普通ケータイとか忘れるか?現代人として…」
「………」
「おい、どうした…?」

泰三さんの顔、声、匂い…
涙が溢れてきた。思い切り抱きついた。
玄関先だというのにオレは声を上げて泣いた。
泰三さんは何も言わずに頭を撫でてくれた。
009

ようやく泣き止んだオレを布団に寝かし、
アイスノンやら水やらを準備してくれた。
オレは途切れ途切れに事の経緯を話した。
泰三さんは怒りを露わにして聞いた。

「はあ!?そいつの家どこや!」
「いいよ、オレだって振られたその日に泰三さんと…」
「アホか!そいつはお前と付き会っときながら他の男とヤッてたんやで!
お前が許してもオレが許されへん!しばき倒してくる!」
「お願いだから、やめてあげて。康太は家庭もあるから…」
「そんなこと言うても、お前…」
「慶吾も大事な友達だから、今はそりゃ、顔も見たくないけど…
でもだからって暴力で解決しちゃダメだよ…」
「でもなあ……」
「泰三さんには、悪者になって欲しくないから。お願い…」
「う……」

泰三さんはまだ腑に落ちないというような表情だったが
しばらくすると少し冷静になってきたようだった。

「そうやな…相手に怒りをぶつけるよりも、
お前が一秒でも早く元気になるように支えてやらなあかんよな。ゴメンな」
「うん、ありがとう。でも、とことん突き落とされて良かったかも。
なんかゆうべの康太への未練がすっかりなくなった感じ」
「そうか…、良かった…んかな?」
「うん。それに、泰三さんが居てくれるもん。
あ…、そういえばどうやってうちが分かったの?」
「ああ…謝ろうと思うててん。住所分からんかったし、
ケータイの番号とメアドしか連絡手段交換してなかったから
勝手にプロフィール見て、登録されてる住所を探したんよ。ゴメンな」
「そうだったんだ。ありがとね、わざわざ届けてくれて…。
でも、今日はそろそろ…」
「何でや?明日も休みやろ?月曜日ちゃんと出れるようにしっかり看病するで」
「だって、うつしたくないもん…」
「アホ、お前にやったら、インフルエンザでも何でも喜んでうつされたるわ」
「泰三さん…」
「やから…キス、しよ」
「……」
「オレが、全部忘れさしたるから…」



(泰三さん……)



「やっぱり、ダメー!w」
「はあ?何でやねん」
「だって泰三さんまで風邪引いたら
オレの事は誰が看病するの?泰三さんの事は?」
「うぐ…」
「だからはいちゃんとマスクして。
そこの引き出しに救急箱があるからその中。
オレの分も取ってよ」
「おいおい、いきなり人使いが荒くなったの(;´д`)」
「とにかく言ったからには今日明日できちんと治して貰いますから」
「しゃーないやつやなあ…」
「ちゃんと治してくれたらご褒美あげるからね♪」
「アホw」

気持ちはすっかり軽かった。
あんだけのショックを受けたからか、
いっぱい泣いたからか
康太の事はもう何とも思わなかった。
いや、泰三さんが居てくれたからだ。
泰三さんがオレの悲しみも、憎悪も
全部吸い取って浄化してくれたから。

心を覆っていた雲はいつの間にか晴れ
柔らかい光で満たされていた。
(´・ω・`)★☆(´・ω・`)★☆かいせつ★☆(´・ω・`)★☆(´・ω・`)

タイトルは心を覆っていた暗雲が切れて
これから明るい光が射し込んできますよという意味を込めました。

また冒頭で雨に濡れたままで寝てしまい、
ユキヒロは風邪を引いてしまいますが、これは
魔女の宅急便からアイデアをいただきました。

事の顛末を聞かされて逆上する泰三を
ユキヒロがなだめるという描写で
泰三のユキヒロへの信頼を表現しました。

そしてまた今回もじらし作戦。
キスを拒絶してからのコミカルな展開は
話にメリハリをつけたかったのと
ユキヒロの照れ隠しを表現しています。