泰三さんの家から自宅がある高円寺までは歩いても30分くらいだった。

(何だ、意外と近所だったんだ・・・)

そう思いながら自宅への道を歩く。
温かく乾いた風が吹いた。目を細める。あくびが出た。
あんな風に抱き合って寝たのは久しぶりだったから
夜中に何度も目が覚めてしまった。

目が覚めるたびに、泰三さんの胸の中だった。
少し見上げるとスヤスヤと寝息を立てている泰三さんの顔が見えた。
小説とか漫画だったらこんなワイルドな見た目のキャラは
イビキや歯軋りはもちろん、
酷い寝相なんて当たり前っていうイメージだけど
その寝方はまるで、女の子みたいで今思い出しても笑えてくる。
朝、トーストをいっしょに食べながらその話をしたら
無言で頭を叩かれたけど…顔真っ赤にしてたから恥ずかしかったんだろうな。
思い出し笑いをしながら歩いているとあっという間に家に着いた。

「あ…そうだ、これ返しに行かなきゃ」

部屋に入って目に付いたのはテーブルの上のPSPだった。
風邪を引いた時に、親友の慶吾から暇つぶしにと借りたものだった。
008

一旦下ろしたナイキのエナメルバッグにPSPを入れ、また肩にかける。
そしてキッチンで水を一杯飲んでから出かけた。
空が少し曇ってきたようだった。

「……康太?」

慶吾の家に向かっていると、前の方に見覚えのある後姿を見つけた。
髪型も、服も、カバンも、カバンについてるストラップも…。
何でこんなところに…?康太の家は多摩市にある。
オレと別れて、高円寺になんて用はなくなったはずなのに…。
昨日オレを呼び出した駅前の喫茶店でも
「当分ここに来る事もないだろうな…」って言ってたのに。
ダメだとは思いつつオレは康太の後ろを気付かれないようについていった。

(嘘だろ…?)

康太は迷う様子もなく、慶吾の家の方角に向かって歩いていく。
慶吾の家は一人暮らしにしては広く、ムダに物も揃っていたので
よく2人で行って、焼肉とかたこ焼きを作ったりゲームして遊んだりした。
康太が家の場所を知っていても不自然じゃない。

(何か、用事があるんだよな…)

雲行きはどんどん怪しくなっていく。
こんな安いドラマみたいな演出、要らないのに…。
出来れば通り過ぎてくれという願いも虚しく、
康太は慶吾のマンションに入っていった。

(しばらくしたら出てくるかな)

マンションの下でちょっと様子を見ることにした。
10分経った。風が冷たくなってきた…
20分経った。小雨がぱらついてきた…
30分経った。とうとう本降りになってきた…
痺れを切らしてオレは慶吾の部屋の前に立った。

インターホンのボタンに指をかける。
押したらいけないような気がした。
鼓動がどんどん早くなっていく。
もし…いや…でも…!!

(どうしよう…やっぱりまた来ようかな…)

結局ボタンを押す勇気もないまま
引き返そうとしたオレの耳に慶吾の声が微かに聞こえた。

『あぁ…康太ぁ…!』

その声に弾かれた様にオレはドアノブを引っ張った。
驚いたことに鍵はかかってなかった。
玄関から伸びた廊下、その先にあるリビングへのドア
歩いて数歩の距離なのに果てしなく遠く感じた。
そのドアを勢いよく開ける。

「慶吾…康太…」

目の前には見たくなかった光景が広がっていた。
ベッドの上で康太が慶吾に覆いかぶさっていた。
そして、二人とも裸だった。

「えっ…ユキヒロ…!?」
「慶吾…お前…」
「ユキヒロ…違うんだ、これは…」

「馴れ馴れしく呼ぶなよ!」

「ユキヒロ……」
「康太…慶吾の事が好きなのか…?」
「………」
「…慶吾は?」
「……」
「即答できないのかよ。遊びなのかよ!」
「……ユキヒロ…」
「今日で10回目だ…」
「何?」
「俺達がこうやって会うのは10回目だ」
「……じゃあ」
「ああ…お前に慶吾を紹介されてから、慶吾の事が気になり始めた」
「康太…もう、それ以上は…」
「お前と会った日、駅で別れた後また改札から出て
慶吾の家に泊まって翌朝始発で帰ってた」
「…………それで…?」
「お前に言った別れたい理由は嘘じゃない。
ただ、浮気を隠したのは必要以上に傷つけたくなかったからだ」
「ふ…ざ、けんなよ!
そんなの自分の優しさに酔いしれてるだけじゃねーか!
長続きさせたかったら直して欲しいって言えばいいだけの事なのに
浮気の罪悪感に負けて
オレの嫌な所を理由に切っただけじゃねーかよ!
自分のした事正当化してんじゃねーよ!」

悲しみが、悔しさが澱の様に足元に溜まっていった。
流れ続ける涙で視界は陽炎のように歪んでいた。
時間が、止まってしまったような気がした。
秒針の音が、嘘の事の様に感じた。
雨の音だけが、部屋の中に響いていた。
もう……おしまいだ。

「ユ、ユキヒロ……」
「PSP…返しに来たんだ…土足で入ってゴメン…」

それだけ言うとオレはPSPをテーブルの上に置き、慶吾の部屋を後にした。
雨は激しくなっていたが傘なんて持ってなかった。
オレは雨に打たれながら、トボトボと家へと向かった。

(´・ω・`)★☆(´・ω・`)★☆かいせつ★☆(´・ω・`)★☆(´・ω・`)

「テーブルの上のPSP」は康太と慶吾の密会に鉢合わせる口実として
実際けいいちが風邪を引いた時に借りた事があるというエピソードを使い、
慶吾のマンションにユキヒロを行かせることにしました。

『康太ぁ!アッー!!』は説明不要ですねw
ゲイといえば「アッー!!」というくらい有名なフレーズですが…
実際ゲイはほとんど使いませんよ。・・・たぶん(;´ω`)
つーかどうやって発音するのコレ。