(言うてもーた・・・・・・)

心拍数が上がっていく。
汗が出てきた。
後悔した。
でももう乗りかかった船は出てしまった。

***

(それって、泰三さんも…?)

あまりに突然の告白に
頭が真っ白になった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう…。
誘われたって事は
泰三さん的にはOKって事だけど…
オレも泰三さんの事…イケる…けど……
でも、やっぱり…

***

ユキヒロは背中を向けたまま動かない。

(もう寝たんか?早すぎやろ。さっきまで喋っとったのに…。
やっぱり振られたその日に別の男となんて
さすがに…なぁ……。
アホかオレは。あの人に似てるからって先走りしすぎやろ)

オレの一言が余計にユキヒロを傷つけたかもしれない。
何が「こいつの心の時間が動きだす手助けになれたら」だ。
独り善がりな思いやりで結局相手を傷つけたのか。
くそ!

***

背後から深いため息が聞こえた。
オレは…オレは…。
泰三さん、どんな気持ちで言ったんだろう。
ただオレとヤりたいだけなのかな。
恐る恐る後ろを振り返る。ゆっくりと…。
泰三さんは仰向けになって目を閉じている。

「泰三さん…オレ…」

そこまで言って言葉に詰まった。
自分でもどうしたら良いのか分からない。
泰三さんはゆっくりと目を開き、こちらを向いた。
その目にはさっきまでの鋭い眼光はなく
巨大な体躯が逆に情けなく見える程の悲しみに満ちていた。

「すまん…俺も、酔ってるみたいやし、気にせんといてくれ…」

そう言うと、オレの頭をまたクシャッと撫で、
今度は泰三さんがオレに背を向けた。
その後姿に胸が痛んだ。

***

(もう…ユキヒロとは会えんな。合わせる顔がない)

軽率だった。
自分勝手だった。
あの人に似てるから、それだけの事で
勝手に先走って傷口に塩塗って、えぐって
俺にはそんな事する権利なんてないのに。

(…やっぱりちゃんと謝らな)

もう一度ユキヒロの方に寝返りを打とうとしたその時…。

***

泰三さんの背中を見てものすごく胸が痛んだ。
頭の中はグチャグチャで全然考えがまとまらない。
気持ちに答える事で二人とも傷つくかもしれないけど
今はただ目の前の大きなはずの背中が
ションボリと小さく丸くなっている。
その様子が何より俺の胸を締め付けた。

(この人を悲しませたくない…)
006
いつしか頭の中はその気持ちで満たされた。
吸い寄せられるようにその背中に抱きついた。



「オレ…どうしたら良いか分かんないよ……
でも、泰三さんの寂しそうな背中、見てられないよ…」



自分の事なんてどうでもよかった。
後悔してもいい。ただただ目の前の寂しい巨人を放っておけなかった。
それだけの思いでオレは船を漕ぎ出した。
(´・ω・`)★☆(´・ω・`)★☆かいせつ★☆(´・ω・`)★☆(´・ω・`)

タイトルの「航海」という言葉は
ゲイをカミングアウトした泰三の「言わなければよかった」という後悔と
泰三の一言ですべてが動き出した事を航海に例えた
ダブルミーニングです。

今までは1話まるごと、どちらかの固定視点でしたが
今回は二人の感情が交錯する様子を
カメラを切り替えるように書いてみました。
わりと好きな回です。