すぐ近くにあった全国チェーンの居酒屋に入った。
個室が開いてるということだったので案内してもらった。

「生大1つ。自分は?」
「えーと…じゃあ酎ハイレモン」
「食いもんは適当に頼むで」
「ハイ」

数分後、酒とお通しが運ばれてきた。

「よし、乾杯!」
「乾杯…」
「あー、うまいな。……で、何があったんや?よかったら聞くで」
「え、イヤぁ……」
「……、まあ、話したくなったら話したらええわ。とりあえず飲むで」
「そうですね」
「一週間頑張ったんやし週末くらいは飲まんとな。
おっと、自己紹介がまだやったな、オレは橋口泰三いうんや。ヨロシクな」
「名取ユキヒロです。よろしく」
「ユキヒロか。ええ名前やな。まだ若いよな。二十歳くらいか?」
「やだなあ、もう24ですよ。橋口さんはお幾つですか?」
「泰三でええよ。もうちょっとで32やわ。早いなあw」
「じゃあ、泰三さんで」
「おう」

そうこう言ってる間にどんどん料理が運ばれてきて
テーブルの上は瞬く間に皿で埋め尽くされた。
(ちょっと頼みすぎたか…、まあユキヒロもよう食いそうやし、こんなもんか)
そんな事を考えながら他愛のない会話とともに酒を流し込む。
3杯目のビールを受け取りながら飲み食いしてるユキヒロの顔をちらりと見る。
(それにしても…そっくりすぎるな。苗字が違うから兄弟って事はなさそうやけど)

「……ん、何?」
「イヤ、うまそうに食っとるなと思ってな。ちょっと酔ってきたか?w」
「うん、久しぶりに飲むからねーw」
「そうなんや、普段は飲まへんのか?」
「うん、あんまり強くないから」
「そうか…ムリヤリ連れてきて悪かったな」
「いいよ、今日は…ちょっと飲みたい気分だった…から……」

瞬く間に顔色が曇っていき、肩が震え始めた。

「お、おい…大丈夫か?」
「……う、うう……」
「何か、辛い事があったんやな…」
「何で…自分勝手すぎるよ……」

そういうとユキヒロは2杯目の酎ハイを飲み干し
ちょうど通りがかった店員を呼びつけた。

「鏡月ロックで!」
「お、おい」
「いいんです!あんなやつ、もう…もう、どうでも……うううう」
(………こりゃ介抱せんとダメっぽいな)

運ばれてきた焼酎を泣きながら飲みながら
ユキヒロは今日の出来事を話し始めた。

「一緒に居るときにベタベタするのがいやだったって。
我慢してたけど疲れたから別れようって。
そんなそぶり全く見せなかったのに!
直して欲しいなら言って欲しかったのに!
コウタのヤツひどすぎる……」

(コウタ?男の名前やん…って事は…やっぱりこいつも……)

しかし…そこまで言うとユキヒロはテーブルに突っ伏してピクリともしなくなった。
すっかり潰れたようだ。
料理はすっかり冷め切っていたがなんだかんだで9割方片付いていた。
とりあえず勿体無いので残りをかき込んでいたとき

ガシャーン!
ユキヒロの方から大きい音がした。
「!?…おいおい」

飲みかけのグラスを持ったまま横になってしまったようで服が酒まみれだった。
取り皿も一緒にテーブルから落ちていた。
幸い割れては居らず、怪我もしてないようだったが、
服には料理のシミがついてしまっている。
店員に侘びをし、ユキヒロの上着を脱がして背負い、
レジで会計を済ませて家路についた。
公園に差し掛かったときに背中で眠っていたユキヒロが目を覚ました。

004


「あ……ごめん重いよね。歩ける…」
「大丈夫や。ダテに鍛えてへんわ」
「でも暑い。服脱ぎたい」
「はあ?」
「もういやだこんな服恥ずかしくて着てられない!脱ぐ!」
「アホか、ほんだらオレが恥ずかしいわ」
「シンゴー!シンゴー!うわーん!」
「誰やねん!」
「うう……」

そのまままた眠ってしまった。全く誰やねんシンゴって。
(ふう、着いた…とりあえず着替えさせて寝かしとこ)
箪笥からスエットを取りだして無理やり着せてベッドに寝かせた。

「うう……コウタぁ……」

(泣くほど好きやったんやな…)
あの人にそっくりな男が、他の男に振られて泣いている。
かなり複雑な心境だった。あれからもう何年も経つというのに。
せめてこいつの心の時間が再び動きだす手助けになれたら……。

(´・ω・`)★☆(´・ω・`)★☆かいせつ★☆(´・ω・`)★☆(´・ω・`)

今回ようやく主人公とその相手の名前が明らかになります。
ちなみにこの居酒屋のシーンは原案にはありません。

公園→服を脱ぎたい→シンゴーシンゴーは
当時旬だったネタですねw
この部分の「脱ぎたい」までのかみ合わない会話を考えるのが
一番労力を使ったかもしれませんw

また「よく食べそう」なユキヒロを軽々とおぶっていく泰三の
パワフルさなんかはけいいち的には萌えポイントです。

ちなみにタイトル「止まった時計」は
ユキヒロの失恋はもちろん
「龍次さん」の事を忘れられていない泰三の事も表しています。