Starry Sky

ゲイによるノンケ向けのゲイ恋愛小説です。性的表現は控えめですがなきにしもあらずなので苦手な方はご遠慮ください。

031. 震えた気がして電話を見て

「名前と、年齢と、職業は?」
「橋口泰三、32歳です。自動車整備やってます」
「状況説明してもらえるかな」
「ちょっと長くなりますが、
12年前に浪速警察署の川口龍次巡査殺害事件がありました。
オレはその川口巡査と当時付き合ってました」
「え、ちょっと待って、という事は…おたく、ホモ?」
「そうです。今日一緒に居たのは恋人です」
「……ああ…あ、そう……えっと、続けて」
「川口巡査が覚せい剤取締法違反で逮捕したのが
黒澤優…あの男です。刑期を終えて出所したものの、
川口巡査に恨みを持ち、殺害しました。
その事件で黒澤は再び逮捕され、懲役12年の判決が出ました…。
そして12年後出所してきた黒澤は、
刑務所の中で川口巡査に甥がいる事を知り、
…どうやって調べたかは知りませんが、東京にやって来ました。
その甥が今のオレの恋人です」
「ちょっと整理します…
黒澤優がかつてのあなたの恋人の川口巡査に恨みを持ち、殺害…
そして実刑判決を受け、服役…
その服役中に川口巡査に甥がいる事を知り、東京に来たと…」
「そうです」
「なんで川口巡査の甥を襲う必要があったんですかね」
「それは…」

***

泰三さんは事情聴取を受けるとかで警察に連れて行かれてしまった。
そのあとすぐに救急車が来て、黒澤を乗せて走っていった。
泰三さんが足払いで倒した時、
払いのけたナイフが背中に刺さってしまったらしい。
これって…正当防衛だよな、泰三さん捕まらないよな…?
そう考えただけで恐ろしくて体が震えだした。

「ヒヒヒヒ…きも、…きもち…いい……ww」

かすれた声で笑いながら救急車に乗せられる黒澤が
最後に発した言葉が頭をよぎる…。

(クソ!あんな…あんなやつのせいで泰三さんが逮捕さr…!?)

その時ポケットに入れたケータイが震えた気がした。
慌てて取り出した…が、液晶には何も表示されてなかった。
着信ランプも光ってない。

(気のせいか…)

「心配すんな。すぐ帰ってくるからな。
久しぶりにお前のティラミス食いたいから作って待っててくれるか?」

パトカーに乗る前に泰三さんが言ってくれた言葉を思い出す。
ベッドからのろのろと起き上がり、冷蔵庫を開ける。
泰三さんと付き合い始めて、色々食材は買うようにしていたが…

「マスカルポーネ…切らしてるよ…バカ…」

スーパーはもう閉まってる時間だし、
コンビニのクリームチーズで代用するか…。
オレは財布を持って玄関のドアを開けた。

ゴッ。

「イテテテテテ……」
「あ、すいませ…慶吾!?何で?」
「ごめん、下がちょうど開いてたから直で来たんだけど…」

慶吾の顔を見た瞬間、現実に引き戻された。
黒澤の事、泰三さんの事、全部夢かもしれないと思ってたけど

(やっぱり本当…なんだ…)

足に力が入らず、立てなくなってしまった。
ヘロヘロとその場に座り込む。

「おい、どうしたんだよ!?」
「う…うん、実は……」

***

「つまり…川口巡査と付き合っていたあなたが
川口巡査そっくりの甥っ子さんと付き合っている様子を
12年前の川口巡査と重ね合わせた黒澤が
あなたの恋人を殺害しようと襲ってきたという事ですね」
「はい。それで、夜道で襲われたんです。
とにかくあの時は黒澤の動きをどうにかして封じる事しか
頭にありませんでした。」
「それで、足払いをして倒した結果、背中にナイフが刺さった、と…」
「そうです」
「……分かりました。12年前の事件とも関わりがある様ですので
浪速警察署に問い合わせてみます。少しお待ちいただけますか」
「ハイ」

***

「え…?どういう事?襲われそうになったって…?」
「えっと…何から話せばいいのかな…
まず泰三さんが12年前に付き合ってた人が警官で…
その人が逮捕した犯人が、恨んでその人を殺して…
刑務所の中でその警官には甥がいるって事を知って…
それがオレで…それで、オレを…こ…殺しに…」

そこまで言って怖くなった。
体がガタガタと震えだした。
慶吾の手が肩に置かれた。
慶吾の手も震えていた。

「で、でも…ちゃんと生きてるじゃん…
そういえば、泰三さんは…?」
「泰三さんが…黒澤を…その男を…やっつけてくれた…」
「え、そ…そう、良かったじゃん!」
「でも…黒澤に重傷を負わせて…今、警察に……
すぐ帰ってくるから、ティラミス作って待ってろって……
もう11時半になるのに……」
「…………」

慶吾は黙って立ち上がって、手をこっちに差し伸べてきた。

「…買い物行くんだろ?ホラ」

オレは黙ってその手を握り返した。
グッと腕を引いて立ち上がらせてくれた。

「ありがと…」
「大丈夫だって!どう考えても正当防衛じゃん!
早く買い物済ませて作ろう。
じゃないと泰三さんすねちゃうよw」
「そ…そう、だよ…ね。うん、そうだよね」
「そう!大丈夫だから!」

慶吾の笑顔がいつになく頼もしかった。
そうだ。待ってる事しか出来ないんだったら
泰三さんの喜んでくれるようなおいしいティラミスを作らなきゃ!
俺達はコンビニへと急いだ。

030. edge

「ふざけんなよ…!クソが!!」

黒澤の顔面めがけて拳を打ち込んだ瞬間
視界から黒澤の姿が消えた

(下か!)

下を見る。次の瞬間にはナイフが目の前にあった。
右腕で反射的に払いのけ、続けざまに肘打ちを食らわせる。

ガッ!

またかわされた。
当たりはしたがダメージにはなってないだろう。
右の頬がズキズキと痛む。
頬を温かい血が流れていくのが分かった。
血が顎から鎖骨にポタポタと垂れる。
ナイフをかわしきれなかったらしい。

(クソ…丸腰だと分が悪いな…)

間合いを一旦開く。
ユキヒロはさっきから動けなくなっているようだ。

(黒澤の野郎…!ユキヒロを守るためやったらオレは…)

もう一度ユキヒロの位置を確認しようと
一瞬後ろに気をやった隙に黒澤が襲い掛かってきた。

「あっ!」

気づいた時には黒澤はもう既に目の前にいた。
喉を狙ってナイフで突いて来た。
すぐ後ろにはユキヒロがいる!
よけるわけには…!!

ガシッ!!

咄嗟に黒澤の右手を掴んだ。
喉ギリギリのところでナイフが止まる。
クソ…力じゃ負けないつもりだが…互角か…それ以上だ。

「いひひいいいぃ。あの時の事、思い出すなぁあぁああぁw
興奮してきちまったぜえぇw」
「変態野郎…地獄に堕ちやがれ…!」
「うひひ。男同士でサカり合ってるお前らも、変態じゃねぇかよおぉwww」

その言葉にオレの中で何かがキレた。

「お前みたいなキチガイと一緒にする…なぁあああ!」

怒りにまかせ右手に渾身の力を込めて黒澤の手首をひねり上げた。


ボキ…ッ、ゴキッ!


黒澤の手首がありえない方向に曲がった。

「ぁあああああははあはああぁぁ!!んぎも゙…ぢ、い゙ぃいwwwwww」
「くたばれ!」

完全に目がイッている。
続けざまにボディブローを入れる。
黒澤の手からナイフが落ちた…
騒ぎを聞いた誰かが通報したのか、
パトカーのサイレンの音が近づいてきた。

(よし…これで警察が来れば…)

しかし次の瞬間、
黒澤は左手で落ちていくナイフをキャッチし、
オレに向かって突き出してきた。

「……っ!!」

オレは咄嗟に右手でナイフを掴んだ。
しかし目測を誤り、刃の部分を掴んでしまった。
焼けるような痛みが右の掌に走る。

(ぐっ…!!)

このままだと形勢逆転もありうる。
左足ですばやく黒澤の右手を蹴り上げる。
関節がイカれているからダメージはでかいはずだ。
予想通り黒澤は呻き、ナイフを握っている手から一瞬力が抜けた。

(今や!!)

ナイフを持った手を払いのけ、喉を押しながら足払いをした。
黒澤は派手な音を立てて地面に倒れた。
パトカーのサイレンがすぐ後ろまで来て止まった。

「ヒヒヒ……気持ち…いいぃ……」
「ハア…ハア…」
「君達!何やってるんだ!!やめなさい!」

黒澤は起き上がる気配を見せない。
警官の駆け寄ってくる足跡が近づいてくる。
頬と掌はまだじんじんと痛む。
黒澤の背中の辺りから黒い水のようなものが湧き出してきた。

(……血?)

ニヤニヤしながらこちらを見つめる黒澤から、オレは視線を外せなかった。

029. ずっとキミを守りたい

駅からマンションまではなるべく広い通りを選ぼうと電車の中で言った。
本当は何も言わずに適当に理由をつけていつもと違う道を選びたかったが
うまい理由が思い浮かばなかった。
ユキヒロはそれでも笑顔で「ありがと」と言ってくれた。

しかし、ユキヒロの家の周りは結構静かな住宅街だから
大通りからすぐにマンションの入口というわけには行かない。
たぶん黒澤も警察に通報されてないなどとは思わないだろう。
自分に捜査の手が伸びる前に行動に移すはずだ。
とにかく何があってもユキヒロを守る。

そしてユキヒロの家が近くなってきた。
まだ9時過ぎだから電気が点いている家がほとんどだが
道を歩く人通りは随分と少なくなっていた。
街灯が切れかけた交差点が近づくと
ユキヒロは少し不安になってきたようで
オレのシャツを掴んでキョロキョロと周りを見渡している。
空には頼りなく輝く星がまばらに瞬いていた。

「大丈夫やから。な」

右手に持っていた紙袋を左手に持ち替え、
肩を抱いてやろうとした時、
奇声とともに何者かが路地から飛び出してきた。
次の瞬間ギラリとした光が目に映った。

「…!!」

とっさに右手でユキヒロを突き飛ばす。
そのまま右足を軸に左足で「その方向」に蹴りを入れた。

ガッ!

衝撃が軽い。狙いが外れた。
あるいは相手が避けたのか…。
消えていた街頭が点滅した。
その光が照らし出したのは…

「黒澤……っ!!」

あの時と同じ、忌々しい笑みを浮かべていた。
高く掲げた右手にはナイフがしっかりと握られていた。
龍次さんを殺した男が、今目の前に居る…。
オレは体の中で暴れまわる恐怖を感じたが
それと同時に龍次さんを奪われた悔しさが燃え上がり
武者震いが止まらなかった。

(ユキヒロには指一本触れさせん…!!)

次の瞬間、黒澤の腕が振り下ろされた。
空を切る音がした。
反射的にその腕をかわす。そしてもう一度相手に蹴りを入れる。

ドカッ!!

今度は確実にヒットした。
黒澤は呻きながら飛びずさった。
オレもユキヒロのいる方に後ずさりし、
黒澤との距離を開ける。
奴を睨んだままユキヒロに囁く。

「立てるか?今すぐ逃げろ」
「で…でも…」
「うひひひい…久しぶりだなあ」
「黒澤…何でユキヒロを狙う?」
「あははぁぁ……お前、知らないのかあぁ?」
「…何や?」
「おまえはぁ、恋人の事を、なぁーんにもぉ、知らないんだなあぁぁw」
「…………どういう事や」
「龍次もぉ……ユキヒロもぉ……本気で愛して、ないんだなあぁぁw」
「……龍次さんと…ユキヒロ……?どうい…まさか!?」
「…泰三さん……?」

黒澤は嬉しそうにニヤニヤしながら
ゆっくりとナイフでユキヒロのほうを指した。

「お前は……川口龍次の……甥だよw」
「………龍次さんが…オレの……?」
「泰三も鈍いよなぁあぁwこぉおんなにそっくりなのになあぁww」
「そ…それがユキヒロを狙う理由やと!?どういう理屈…」
「あいつの血縁はみんな死ななきゃイヤなのー!!」

まるで子供が駄々を捏ねるような口ぶりだ。
ふざけているように笑う。

「龍次は両親も、姉も…とっくに死んでたが…刑務所の中で聞いたんだよ
あいつにまだ…血のつながった甥が居るって…
両親を事故で亡くして、親戚に引き取られたってなぁあぁw」
「だからってこいつは関係ないやろが!」
「そうだなぁ…お前がユキヒロと付き合ってなければなあぁw」
「!?」
「どんな奴かと思って…情報をかき集めて…東京にやってきてみりゃあぁ
あいつが愛したお前が…あいつにそっくりの甥と愛し合ってる…
その時…龍次が生き返ったんだよ…オレの中でなぁああぁ
殺さなきゃなあぁ、オレの気が済まねーんだよぉw」

ユキヒロは完全に言葉を失ってしまっていた。
自分の愛した人の過去の恋人が自分の叔父であったというショック
そして自分の命が危険にさらされているという恐怖…
こんな奴に…こんな理由でユキヒロの命を奪わせるわけには…いかない。

「お前に…ユキヒロは…殺させへんぞ!」
「あははぁぁwジャマするなら…お前も殺しちゃおっかなぁああぁw
またケツ掘るくらいで許してやろうと思ったのになあぁああw」
「ふざけんなよ…!クソが!!」

オレは頭に血が上り、次の瞬間黒澤に襲い掛かっていった。

028. 見えない角度で

ショップを出て本屋に向かう。
夕焼けの空を横目に見ながらエスカレーターを下り
エナメルバッグに財布の入った紙袋を仕舞った。
店に着いて入口から中をうかがうと
棚の上からよく知ってる顔が飛び出していた。

「お待たせ!」
「おう、結構早かったな」
「うん、たいした用事じゃなかったからね」
「そうか。これからどうする?」
「んー。まだ晩ご飯には早いよね」
「そうやなー。じゃあゲーセンでも行くか」
「ゲーセンかあ。当分行ってないなあ。面白そう。行こ行こ!」

というわけでゲーセンにやってきた。
パチンコ屋みたいに騒然としている。

「へー、最近のゲーセンってすごいね」
「やろ。お、良かったドラムあいてるやん」
「ドラム?え、これどうやるの?」
「フフン。まあ見ててみ」

泰三さんは備え付けのスティックを握り
エレキドラムにテレビ画面がついたような筐体の前に座った。
コインを入れ、なにやら選択している。
画面が切り替わって音楽が流れると同時に
画面の上からいろんなバーが降ってくる。

(なるほど、タイミングを合わせて正しい所を叩くのか…)

それにしても泰三さんの腕前はすごく上手かった。
ドラムの事はよく分からないけど
なんか泰三さんの今まで知らなかった表情が
また見れた気がして、刺激的だった。
4曲で、正味10分くらいの時間だったけど見惚れていた。

「どうや?」
「すごく…かっこいいです……」
「やろー?w ま、ホンマもんのドラムとは全然違うけどな」
「泰三さんってドラマーだったの?」
「昔ちょっとな。最近はもっぱらゲームやけど」
「へえ。オレも手が治ったらやってみたいな」
「そうやな。また一緒に来ような」

そのあとはクイズのゲームを二人でやった。
1つの筐体に二人で並んで座ってやるから肩が密着してドキドキする。
ひとしきり遊んでからレストランフロアに行った。

「なに食べよっか」
「そうやなー。米食いたいな」
「じゃあ…ここは?」
「トンカツか、ええな」

二人でトンカツ定食を注文して食べた。
時々目が合うと泰三さんはニヤッと笑う。
オレもつられてニヤッと笑う。
こうしてたまに外で食べるのもいいな。
会計をする時に泰三さんの財布を見た。
良かった、新しいのに買い換えてはないな。
まあ、あんなボロボロになるまで使うくらいだから
そうそう簡単に買い換えないか。
ビルを出てちょっとした広場のベンチに座った。
生ぬるい夜風が頬を撫でる。

「ああ、旨かったな」
「泰三さんの料理の方がオレは好きだけどね」
「まあ、当然やなw」
「自分で言ってるしw あ、そうだ」

オレはバッグから財布の入った紙袋を取り出し
泰三さんに差し出した。

「何や?」
「えーと…プレゼント?」
「なんで疑問形やねん」

泰三さんは紙袋を受け取ると中からラッピングされた財布を取り出した。
包装紙をそっと開ける。

「これ…」
「…気に入らなかった?」
「イヤ、めっちゃ嬉しい…。でも、何で急に?」
「んー…特に理由はないけど、強いて言えばこれのお礼、かな」

包帯を巻いた右手をひらひらとかざす。

「それにもう今の財布、かなりくたびれてるし…。
思い出の財布なんだから大事にしなきゃ」
「…そっか。ありがとな」
「大事に使ってね。いい財布だから、長持ちするからね」
「おう、この財布がボロボロになったら、また新しいの買ってくれな」

そう言って周りから見えない角度でオレの手を握ってくれた。
胸がドキドキした。
泰三さんも顔が赤くなってる。
なんか甘い気持ちになって寄り添いたい気持ちになったけど
一応街中だし我慢した。

「よし、腹も膨れたし、そろそろ帰るか」
「うん!」

今日で夏期休暇は終わりだけどすごく楽しかった。
俺達は電車に乗って高円寺に向かった。

027. 夕焼けみたいに沈む気持ちを 胸にしまいこむ

泰三さんにせかされて服を着替えた。
右手が痛むから着るのが難しくて手間取ってたら
泰三さんが手伝ってくれた。

「よいしょ…ありがと」
「いつも思うけど、ユキヒロはおしゃれやんな」
「そう?うちのショップの型落ちだから
ホントにおしゃれな人から見たら1年遅れてるよ」
「そうなんやー。
…オレみたいなジャージと一緒で恥ずかしくないか?」
「自慢の彼氏と一緒で恥ずかしいとでも?」
「イヤ…オレもちょっとくらいは、服装に気を使おうかと…」
「うーん…このままでもいいけどなぁ…
じゃああとでうちのショップ行ってみようか?」
「おう」

そして玄関まで来た。
ゆうべの事が蘇った。ノブに触るのが少し怖い。
躊躇してるのがばれたらしく泰三さんが

「ホレ」

と後ろから手を伸ばしてドアを開けてくれた。
せっかく泰三さんが明るく振舞ってくれてるんだから
オレもずっと沈んだままじゃいられないよな。
振り返って閉まりかけたドアをかかとで押さえて泰三さんを見上げた。

「ありがと」

そう言ってキスした。
泰三さんはきょとんとしていたが、ニコッと笑って抱きしめてくれた。

食事は例の定食屋さんに行った。
暑いし精をつけなきゃねと言う事でうな丼を二人で食べた。
そのあとショップに行ってみた。

「あれー名取君、珍しいじゃない休日に」
「どうもーお疲れ様です」
「え?その右手どうしたの?」
「ああ、ちょっと火傷しちゃってw
今日は彼に合う服があるかなと思って来てみたんですけど」
「ど、どうも…」

泰三さんは初めてこういう店に来るみたいで
完全に挙動不審になっていた。

「わー、背、高いんですね!体格もいいしー!ちょっと名取君いい?」
「ハイ、ちょっと待っててね」
「お、おう…」

そう言うと蜜子*さんはオレの手を引っ張ってバックヤードにきた。

「ちょっと!超イケメンじゃないの!友達?」
「え、えーと…まあ友達というかなんというか…」
「イヤーン、超タイプなんですけど!あの逞しい腕に抱かれたいわー。
それにあのタンクトップの張り詰めた胸!逆三角形の体!
超ヤバいんですけど!どうしよう名取君アタシ化粧崩れてない!?」
「ちょ、蜜子さん、ダメですよ…」
「なんでよ!」
「彼、恋人いるんで…」
「そんなの奪っちゃうわよ!もうアタシもギリギリなのよ!必死なのよ!」
「勘弁してくださいよ、オレの身にもなってくださいよ」
「……チッ」
「チッって…。とりあえず型落ちのでいいから、
安くて彼に合いそうなやついくつか出してもらえませんか?」
「知らないわよもー自分で出せばー?」
「はいはい…」

泰三さんが脈なしと知ってすっかりすねてしまった。
カミングアウトしてないのでハッキリと言えないのがもどかしかったが
何とか諦めてもらえたようで一安心した。

***

「お、おかしくないか…?」
「まあジャージ姿見慣れてるからねえw
やっぱりラフなカッコの方がよさそうだね。
じゃあ…これかな」
「よいしょ…っと。ちょっと派手やないか…?(;´ω`)」
「うーん…やっぱり30代が着る感じじゃないかー。
じゃあこっちのシンプルなやつならどうかな」
「……んー、これはまあまあ、かなあ…どうやろ?」
「いいんじゃない?これなら結構似合ってるよ」

「名取君、まだー?」
蜜子さんの声がカーテンの向こうから聞こえた。

「あ、もう決めたんで、着替え終わったらすぐ出ますー」

元のユニクロのタンクトップに着替えて
泰三さんはようやくほっとしたようだった。
カーテンを開けて外に出る。

「で、どれにするの?」
「えっとこれとこれとこれ…あとこのタンクトップの色違いありましたよね」
「在庫あったかなー」
「ネイビーが確かあったと思うんで、あったらそれを」
「かしこまり〜。ちょっと取って来るわー」

蜜子さんはそう言ってバックヤードに消えていった。

「オイ…オレこんなとこで買ったことないから分からんけど
結構高いんやろ?いくらくらいなんや?」
「あー大丈夫、うち社員割引充実してるから、
あの組み合わせなら1万5000円以内で収まるよ」
「それでも1万5000円か…ユニクロとはえらい違いやな…(;´ω`)」
「お待たせ~。じゃあえーと…合計で1万3500円ね」
「あ、ちょっと…」
「どうしたの?」

オレはレジの横のガラスケースをチラッと見た。

「イヤ、なんでもないです」
「ほな…これでお願いします」
「ありがとうございます〜。1500円のお釣りです」

蜜子さんは服をてきぱきと紙袋に詰めていく。
それを泰三さんに渡した。
オレは店を出たところで泰三さんに耳打ちした。

「ちょっとだけ仕事のことで話があるから
下の本屋で暇潰しててもらっていい?」
「分かった。ほな料理本のコーナーに居るからな」
「うん、ゴメンね」

そういってレジの方に戻っていった。

「何?忘れ物?」
「イヤ、財布欲しかったの忘れてて…」
「フーン、なんで彼を行かせるのよ。
せめて目の保養くらいしたかったのに」
「イ、イヤー…ま、待たせちゃ悪いなと思って、本屋に。
本屋なら暇つぶしできるでしょ?
それにこういう店慣れてなくて緊張してたみたいだから」
「フーン…まあいいわ。で、どれにするの?」
「えっと…これ」
「はいよ」

そう言って蜜子さんはガラスケースから財布を出し、ラッピングし始めた。

「じゃあ1万円ね」
「え、社員割引で2万2000円じゃないんですか?
それにラッピング頼んでないんですけど…」
「『カレ』にあげるんでしょ」
「え?」
「好きなんでしょ?彼の事」
「は?な、なん…そんな、いやあの、ち…えーと…」
「女のカンなめんなよw」
「……御見逸れしました。…つーか、キモいとか…思ってます?」
「は?なんで?」
「イヤ…オレが、その…ゲ、ゲイだから…」
「なーに言ってんのよ、名取君は名取君でしょ!バカねー」
「…は、ハイ…」
「まあ…超タイプだったから残念だけど、
名取君の彼氏なら取る訳には行かないもんねw
お幸せにね」

そう言って蜜子さんは紙袋を渡してくれた。

「ありがとうございます」
「ハイじゃあちょうど1万円ね。まいどあり〜
ところでさ…」
「なんですか?」
「カレのヌード写メ送ってくんね?(*゚∀゚)」
「ダメです!」
「ハハハw 冗談だよwww」
「もう…それじゃ、お疲れ様です」
「はーい、おつかれさま」

オレは紙袋を持ってショップを後にした。
窓の外は夕焼けで空が綺麗なオレンジ色に染まっていた。

(泰三さん…喜んでくれるかな…)

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